第二次性徴変性症6
・目が覚めたら美少女だった


 何時もと違う痛みに眠りを妨げられたが聞き慣れた医療器具のアラーム音が聞こえない……無意識に起き上がりベットから出た……そしてトイレに入る、尿意も感じているからだ。
「やはりないか……うん、えっ……」
洋式便器に座って初めて異常事態を感じた。まず自分は起き上がれない程の全身大火傷を負っていた筈……そして何かが体内から排出された。
「えっ!ええっ!」
洋式便器内に黒に近い赤いモノが……何よりも自分が正常に声を出している事に今気が付いた。戸惑っているとノック音が聞こえた。
「直っ!!!」
スライド式ドアを開けた紗里奈を見る。蒼褪める自分を見た彼女は言う。
「……気が付いたのね!!!」
「ああ、えっと……」
「直、落ち着いて聞いて……数日前の治験薬投与で変性症と全く同じなったのよ」
「はい?」
入院用の寝巻を肌蹴ると確かに胸のふくらみがある……そして改めて洋式便器内を見る。
「……もしかこれ初潮?」
「その様ね……あっ、主治医になる斎藤です」
女医が頭を下げていきなり下腹部を見る。直也は真っ赤になるが斎藤先生は言う。
「何分この様な変性症は前例が無いそうで、治験薬を提供した製薬会社もウチの研究室も大騒ぎしているわ……」
「はぁ……あのぉ」
「とりあえず精密検査するから……それでカウンセリングも始めるわ」
「……はい?」
「知っていると思うが変性症は元の性別に戻る事は無く、今の医学では完全に男性に戻せない……つまり生殖機能を無い男性になる、性同一障害の患者が行き着く先と同じ……」
斎藤先生は目の前にいる患者が意識を取り戻してから男性器を失っている事は気が付いているのでここが気がかりになっていた。
「先生、ストレッチャー用意出来ました!」
「直、これ!」
新品の生理用ショーツを渡され戸惑うと紗里奈が言う。
「ノーパンのままでいいの?」
「……」
穿くしかなかった。ふと洗面台の鏡を見るとショートヘアのボーイッシュな感じの美少女になっていた。毛根を失っているとは思えないほどに。



その後、精密検査の結果は健康状態であり、全身大火傷から数日で女性化した事を含めても奇跡に近い……駆け付けた両親と兄と姉も驚いた、何よりも担当弁護士の方は直ぐに法律事務所の所長に報告すると手筈を整えてくれた。即ち女性として生活出来る様に行政機関でも応じないと互いに損するからだ。
「戸籍の性別変更はOKです、厚生労働省も今回のケースも今後もあり得るとして扱ってくれました」
「仕事速いな」
「これでごねていたらマスコミの餌食ですから」
「……改名しないとね、直也は女性向けの名前じゃないから」
母親は薄ら笑いをしているがこの前まで死んでも不思議じゃない状態だったと思えば当然だ。
「菜緒ってどうかな?」
姉の雅が手帳のメモに漢字で画く。バリバリのキャリアウーマンで今回初めて病院に来た……どうも当初は仕事優先しようとしたがその上司から家族の一大事だからって有給を取らされたそうだ。兄で職業が総合商社マンと言う智弘も出張業務だったがこちらは溜まりに溜まった有給休暇が消費しきれてないと言う事もあって数日間取れたと言う。
「いいねぇ……うん、それにしても小さいな」
「……背丈の事か?」
「否、胸」
母親と雅の見事なひじ打ちを喰らう智弘、父親も同じ事を考えたと分かる表情をした。確かに背丈も中学生位になっている事は姿見を見ても分かるが……それにしても検査室で見たあの少女の胸の凄さは……うん胸囲格差って女性にとっては深刻に思えるんだと実感した。
「……製薬会社の会長がその謝罪したいと」
担当弁護士がスマホを抑えて言う。
「会います」



「頭を上げてください、変性症になった事は想定外だった事は医学に詳しくない自分も理解してます」
数時間後に製薬会社の会長と研究担当の医大教授らは頭を上げた。
「実はあのカラーパウダーの原材料は遺伝子組み換え作物で、食品として流通させずに工芸品として扱う事で流通するようにしていたそうです、最もイベントサークルを主宰した先輩が知ったのが事件の後で……イベント前に自分が諸にカラーパウダーを被っているんです」
「「!!!」」
「彼女が言っているのは本当です、カラーパウダーの袋が破れて頭上から被って……私もあの爆発事故の後にカラーパウダーを仕入れた会社に問い合わせて……」
紗里奈が申し訳ない表情になる。
「では、遺伝子組み換えナノマシンが残存していた可能性もあるか」
教授の表情が険しくなる、医学界でもナノマシンに関しては慎重な意見もある。
「情報提供した方が良かったのかな」
「いいえ、お嬢さん。していても……起きていたと」
会長はどうも研究職からの叩き上げらしく資料も結構な書き込みがある。
「正直、男性として生きていけないと思っていたから、あのまま死んだ方が良かったかもしれません」
菜緒が告げると周囲は鎮まる。
「だけど、こうなったら……ね、男性に戻れない事は知ってます。これは医療事故にしないでください……」
菜緒は笑顔になるがこうしないと場が持たない。
「わかりました、配慮通りにします」
「こちらとしてもありがたく……ぅ」
製薬会社の会長がよろけ、兄が慌てて支える。
「あっ……」
「気になさらず、ここん所の激務でしてな……縁台でのんびりとはいかない世の中でね」
この一件でトドメを刺したのだろう。念のためにその後に診察を受けたらしい。


「紗里奈、助かったよ」
「うん……カラーパウダーを販売した会社もイベント用として仕入れたから、その仕入れ元と喧嘩になったそうよ」
製薬会社会長と医大教授に両親と兄と姉が去った後に紗里奈は遠い目になる。
「先輩は?」
「親戚で農業している人が居るからそこで働いているって、忙しいから中々お見舞いにこれないって」
「イベント業界志望だったのに?」
「内定も辞退したって、あんな事故を起こしたら会社にも迷惑をかけるって」
「自分の責任かな?」
「違うわよ、あの三人……札付きの悪らしいのよ、それに菜緒が変性症と同じ状況になった事は検察も把握しているけど、これでも執行猶予無しに刑務所収監ね……菜緒が死亡しなかっただけでもありがたく思うようにするって」
紗里奈はため息は怒りにも聞こえた。
「そうだ……あの美少女ね、どうも楠瀬運輸社長の姪になるのかな……」
紗里奈もあの爆乳少女を見て思わず自分を胸を見たらしい、そんな時にイベント機材運送でお世話になっている楠瀬運輸社長の仁さんと会ったと言う。
「まだ中学生って」
「……アレ大変になるぞ、一体この後何人屍出来ると思う?楠瀬と言えば親父の世代じゃ地元の悪の間じゃ名が知れたツワモノだ、最も今の奴らは知らないけどね」
「詳しいね」
「親父も何度か仁社長と拳交わしているから、今じゃ年賀状をやり取りする仲でもあってね」
「え?」
父親も事も知っている紗里奈は驚くが至って普通な人当たりが良い男性だからだ。とても学生時代に不良であった事に思えないのだが……まあ兄の反抗期の時にも凄かったからなぁ。



夕方、専用病棟にあるオートコンビニエリアに菜緒は居た。歩行機能にも問題は無いが運動して見ないと分からないのだ。問題無く歩けるが太腿辺りが落ち着かない……。
「色々とあるなぁ」
オートコンビニとはコンビニある品物を自販機で販売する形式で当初は東京に大阪とか竹林の如くにある高層オフィスビル中層階での展開を想定していた。確かに超高層オフィスビルはどのビルもセキュリティが完備、特に社員証が電子キーを兼用している事も多い……つまり社員証を忘れると面倒な事になる。コンビニの方も人材不足や来店客による外国人労働者に対する差別で出店するペースが鈍っている……自販機によるコンビニ展開で課題だったのがコンビニ弁当の類いだがメーカーは対応したらしく展開を始めていた。菜緒が振り向いた瞬間に人とぶつかったが、生々しい感触であの巨乳美少女と分かる。
「ごめんなさい!」
「こちらこそ……」
手首にはリストバンドが装着しており漢字表示とカタカナでフルネームが分かる。
「もしかして……楠瀬運輸の」
「伯父が社長をしてます、えっ?」
玲はキョトンとしていると背後から声がした。
「こら、菜緒……もう」
数分後、玲はぶつかった美少女の素性を知って驚いた。とりあえずイートインスペースでの会話になり途中でリーネも来た。
「……あの複合レジャー施設の事故の、報道されたから知っていたけど」
「そうなのよ、もう想定外で大騒ぎね」
紗里奈は呆れているが玲も報道された範囲で事故の事は知っていた。
「道理で父が東京から飛んでくるわね……今頃研究室で籠っているから後で様子見てくる」
リーネは遠い目になるのはこの分だと変性症研究をしている所、全て知れ渡っているのだ。
「正直、女性として生きていけるか不安になるけど……」
「その問題解決の為に私が居るからね……」
「道明寺先生」
「個室が留守だったから、カウンセリング担当の道明寺です」
「どうも……えっと」
「私は高校生の時に変性発症してね……この背丈だが成人はしているから」
これも菜緒を気を使っている事は本人を含めて理解した。
「大学は復学に関しては無条件で受け入れているけど、どうするの?」
「復学したい、自分が退学になったら先輩に申し訳ないから」
「そうね……学長も障害が残っても受け入れるって言っていたから」
紗里奈はホッとしたのか表情が和らぐ。
「とは言え、前例がない症例だから暫くは入院になるわね」
「はい」
菜緒の場合、男性精神のまま変性症が発症したので通常の患者とは異なり、ややこしくなる事は道明寺も覚悟はしていた。




・親の心情


「……そっか、助かったとは言え戸惑うな」
仁はスマホをハンズフリーモードにして会話をしつつも愛車であるスカニア重トレーラートラックのハンドルを握っていた。会話の相手は学生時代に拳を幾度も交えた高城 丈介であり、今では大手総合商社に勤める社員。とは言え年賀状のやり取りしているから年に数回は会話があるし、直也とはイベントサークルの仕事で知っていた。
「心配はいらないよ、将の所も変性症になってな……ああ、下の子で玲って、そうそう……」
『急な電話して申し訳ないな、いざ会ってみるとどうすればいいのか分からなくなって……』
「それにしても、“医療事故にするな”って言うのは大したもんだよ……」
『ああ、正直な話迷ってはいたが本人の意向を尊重するって決めたよ』
「仕事の一件は検討するが……ウチにも限度ってある」
『頼む、ニッカじゃ頼めないからな……たくっ外国人上司は付き合うのも大変だよ』
仁はぼやきに苦笑するしかない。

kyouske
2019年01月02日(水) 14時11分38秒 公開
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