第二次性徴変性症9
・登校


「玲、もう朝稽古っ!」
「リーナ……だって落ち着かないからさぁ」
リーナは呆れつつもタオルで汗を拭う。
「で、そちらの方は?」
「そっか……リーナは初めて会うよね。橘 総一郎さんとローランド.フェステットさん……三沢自動車本社工場に勤めている人で昨日助けて貰った」
「???」
リーナはキョトンすると傍にいた高士は天井を見た、実は大規模商業施設で玲がテザーガン出襲われた事は高士は伏せておいた、彼女なら激高しかねないからだ。
「高士、玲に腕の傷があるけどどーいう事?」
ローランドはリーナの髪の毛がメデゥーサの様に蠢いている様に見えた。
「実は……」
高士は事の顛末を説明し終えた途端に彼女の拳が高士の腹に突き刺さった。
「あちらも玲の事は知らんで連れ去り起こそうとした。そんな事起こせばどうなるか……本当に穏便に済んでよかったよ、こっちの仕事にも差し支えるからなぁ」
高士の父親である日比谷 玄武も楠瀬家の事は知っているのでため息をつく。本職は弁護士であり若い頃は東京で活躍していたが諸事情で地元に戻り自宅近くにある商店街にある雑居ビルにて事務所を構える……無論空手の腕前は父である師範代から幼い少年時代から叩き込まれている、それ故に東京にて雇われ弁護士時代は危険な案件ばかりでストーカーやら暴漢を取り押さえて警察からも厭きれるほどの“武道派”として名が知れた。まあ今の様に故郷に戻ったのは高士の為だ、東京郊外でもやっていけるのだがこれまでの事を考えると妻子にも危害が及ぶ可能性はある。それは雇われ先の弁護士事務所も同じ事を考えていた……その矢先に故郷にて長年活動していた弁護士が引退する事になり玄武に事務所を譲る話が出てきた、それは老弁護士が持つ顧客と係争中の依頼も引き受ける事を意味していたが二つ返事で今に至る。
「でも数年で出てくるじゃのぉ、玄武……」
「分かってますよ、だからこそ反省させる為にも厳罰に持っていく形をとると思いますよ」
玄武は今回の事件も県の弁護士協会が未成年加害者の弁護をやりたがる同業者を国選にすると見ていた。最もそんな彼らから見ても今回の事件は刑期が減らせないだろう……何しろやり過ぎたからだ。
「高士、これ位の突きで倒れて貰うと困るぞ」
突かれた途端に膝をついた高士を玄武はため息交じりで言う。
「そろそろ登校しないと、失礼します」
時計を見た玲は頭を下げて自宅へと戻る、生徒手帳とか貰っておく必要があるからだ……。


シャワーをパッと終わらせ、下着を穿いてブラジャーを装着して下したての制服に身を包む……これだけでも少年だった頃よりも時間がかかる事を実感した。リビングに来ると日菜子が手招きする。
「玲、髪留め」
こればかりは慣れてないので日菜子が慣れた手つきでセットしてくれた。
「後、橘さんが送ってくれるからね」
「えっ!」
「義父さんから貴方を襲った半グレ連中が残っている可能性もあるって言われているのよ」
「へっ?」
「正弘が知り合いに声掛けているけど、念のためにね」
日菜子も困った顔になるが正弘が一番真っ青になっただろう。
「あの橘さんなら二人ともキレても大丈夫そうだしね」
玲は母親の心情を察した。


「……申し訳無いです、妹さんの方は?」
「大丈夫、そっちは叔父夫婦に任せているから……」
ミサワサザンRLの助手席に座るとシートベルトを見て手が止まる、一般の三点式では無く競技車両同様に四点式……総一郎その様子を見て言う。
「失礼、三点式でなくってね……これで時々ラリーするからさぁ」
身を乗り出して手早くセットするが総一郎の匂いにドキっとする。心臓音も聞こえる、うんシャワーしておいてよかったよ。
「(……まっ、まさかコレ!)」
玲は彼に惚れている事を自覚した。
「学校の位置は?」
ナビゲーションシステムを操作する総一郎は言う。
「大丈夫、公共施設は入力済み……行こうか」
アクセルを軽く踏むがそれでもエンジン音が響く……だが玲にとっては実家近くにあるトラックのエンジン音で慣れているので嫌悪感は無い。
「座席倒れないのですね?」
「バケットシート……これじゃないと体が動くからね」
背凭れにRLのロゴマークがある辺りは三沢自動車が出している純正オプションとも分かる。総一郎は的確に運転し玲が通う中学校正門前に止めると担任教師が気が付いた。
「橘っ!橘 総一郎か!」
「ご無沙汰してます、クマせんっじゃなかった!熊川先生」
玲はキョトンとすると彼は言う。
「駐車場にコレ納めてこい、楠瀬にも説明しておかんとなぁ」
何時もは厳しい先生だが時折見せる笑顔で人気がある。


「前の学校での教え子なんだよ……本当に大人ぽいが喧嘩吹っ掛けられるとな……上級生でも他校の生徒も頭にひよこが鳴いて行進する状態だったよ」
しみじみとその時の事を思い出して言うが総一郎にとっては苦い思い出が多いらしく苦笑しつつも紙パックのジュースを飲む。
「三沢自動車本社工場か……じゃあ住むのか?」
「はい伯父夫婦の所に厄介になってます、楠瀬さんは数日前に会ったばかりで」
「例の一件で連れ去りを防いだって言うのは……」
頷く総一郎に熊川先生も納得した、さぞかし犯人にはいい薬になっただろう。
「犯人の中には高校生も含まれていてな……この中学校の卒業生だ、昨日も警察が来て色々と尋ねられたよ……高校も今回の一件は重く見て退学の方向性で動いている」
それは何度も問題を起こしている事を意味している、こうなると高校も突き離す訳だ。
「楠瀬さん、こればかりは庇う事は無い。学生時代の自分に喧嘩を吹っ掛けてきた連中は高校の時に退学になった人も少なくは無い……」
「橘さん……」
玲は彼の寂しげな表情を見て戸惑う。
「さてと、そろそろ会社に行かないと」
「ああ、皆によろしくな」
総一郎は頭を下げ愛車に乗り込んだ。



「楠瀬を見て彼の事を思い出してな……本当にそっくりだな」
「似てますか」
「そりゃあ……まあ違う所は変性症になったと言うか……」
職員室にて玲の胸を見るとこの先幾つ血が流れるか熊川先生も予想が付かない。
「さっきの事は」
「事実さ、あいつは弱き者を助ける為に割って入った事もある。それで虐めが露見して停学処分になったワル仲間と喧嘩した事もある位だ、先生に報告してからじゃ遅い事案になっていたケースもある……それで大学進学をしなかったのさ」
「えっ……」
「どの大学にも行ける学力、学費、空手の実力もあったがね……やかましい他人の親がね」
玲も理由が分かった、この様な親は何処にでもいる……加害者である我が子の言葉を信じ切っている救いようもない親が……。
「学生証確認するよ」
「はい」
生徒証明が電子カード化されており、電子マネーにより購買や学食の支払いも出来る。チャージも出来るが時間帯が限られるのが難点とも言える。
「おっ、楠瀬か……」
「石神先生、おはようございます」
竹刀を持ち剣道の胴着をビシっと着こなすイケメン男性が声をかけるのが石神 匠先生。数学教師であるが剣道が師範代なので剣道部顧問をしている。当然兄の事は知っているし日比谷師範代とは顔見知りだ。
「檜屋からのLトークでしった時には驚いた……うむ、こりゃあ忙しくなるな」
制服姿の玲を見て彼も納得した上のセリフだ。
「お手数かけます」
「仕方ないさ、小学生気分が抜けきれない上級生が出てくるのは当然だ……あいつもその一人だしな……停学期間延長している」
「そうですか」
「楊は胸で済んだが他の生徒の中にはそれ以上まで及んだケースもある……楠瀬、校外で絡んできたら即教えてくれ……なんなら日比谷師範代に突きだしても構わん、あのような生徒は徹底的にしないと理解出来ないタイプだ」
「はい」
リーナにしつこく言い寄って胸まで触った上級生、峰沢 紫苑……どうも親が非常識の塊らしく他校の教師らも困っているらしい。実際あの時も温厚な母親ですら激高し、その場に居た高士の父親が語気を強めた。当事者三人の眼の前で……これ以上事を大きくすればリーナの両親に報告すれば警察沙汰になる、峰沢の母親が折れ紫苑の停学処分を了承したのは自身の身の上まで及ぶからだ。
「石神センセー、道場の鍵です」
他のクラスの女子生徒が玲をチラと見る。
「転校生ですか?」
「楠瀬だよ、変性症で女性になっているからな」
「あっ……あああっ!」
そう言えば楠瀬はイケメンなので思いを寄せている女子生徒もいてもおかしくは無い。職員室に居た教師一同は納得する。
「先生っ、この胸は」
偶々用事で来た養護教師も呆れつつも言う。
「楊のお父さんに聞いてみたら?」
投げやりはご愛敬である。



「既に知っている生徒も多いが……今日から楠瀬が女性として復帰する」
熊川先生の言葉にクラスメイトの視線は玲の胸に向けられる。
「変性症に関しては知っていると思うが……HRは以上」
後は忖度しろと言う事だ、クラスメイトはそう理解した。担任教師が教室から去ると人だかりが出来る。玲の席はともかく数人の女子生徒がリーナに詰め寄る。
「楊さん!」
「玲の胸に関しては……お父さんも興味があるらしくって遺伝子解析している、最も解析して遺伝子操作出来るとしてもリスクはある可能性もあるわよ」
リーナは遠い目でその瞳もぼやけているように見える。
「高士!!!!」
「みんなも知っているけど、玲の所はコワいからな……他の連中にも言っておいて」
高士の祖父も父親もコワい事はクラスメイトらは既に良く知っているが念を押しての発言である。
「お~~大したフィーバーだなぁ」
数学教師の石神先生はにっこりとして教卓に道具を置いた。



お昼になり学食と購買部がある共同棟に向かう。
「玲ちゃん、変わらない訳ね」
弁当箱は円筒形で東南アジア各国では良く見られるステンレス製の三段重ねの円筒形だ。無論料理大好きな母親のセレクトであり兄も父親もコレである。
「うん、朝道場で外国人と組み手したから……」
平然と言いつつ母親がセットしたおかずやご飯を食する姿を見て驚く。
「何処のラノベか漫画のヒロインよ、ソレ……」
なので二時間目が終わると玲は学食で売られているカロリーメイトを食べていた。
「朝さ、熊川先生と話していた方って?」
「橘さん、先生が前の学校での教え子の一人って……カッコイイよね!」
やはり朝連で来ていたクラスメイトらに目撃されていたらしく、どうも尋ねたらしい。
「序にショッピングモールで起きた事件の際に玲を助けてくれた人なのよ……確か双子の妹さんが居て高校生だったけ?」
河井が尋ねると玲は頷いて尋ねる。
「そうだけど……それよりも従妹大丈夫?」
玲が尋ねると柊は言う。
「落ちついているわ……ただカウンセリングは必要になるからって……」
「でもさ、犯人の一人がこの学校のOBって本当?」
「そうらしいよ……もう犯人が在籍している高校じゃ大騒ぎよ」
スマホのグループラインを見た高宮はアチャと言う表情を見せる。
「もしかしたら三年の峰沢も含まれているのかな?」
小声で言うと玲は箸を止める。
「その事だけど、父親と兄に聞いてみる……もし絡まれたら遠慮無に言って……」
「平気なの?」
「うん、もしかしたら警察の手を煩わせるに済むかもしれないし……父の実家って運送業を営んでいるけどそこ社員さんも学生時代にヤンチャだった人が多いから……父も少しそうだったらしい」
小学校が同じだったクラスメイトは納得した表情を見せる。だから先生達は知っていたのかと……。
「玲っ、峰沢の事は聞いた?」
リーナが息を切らして尋ねる。
「停学期間が延びた事は熊川先生から朝聞いたよ」
「……それもだけど、警察が彼の事で情報集めているのよ……」
玲はため息をつきつつもスマホを操作する。一応彼ともトラブルを起こしている一人だ。
「次、水泳だったよね?」


「君も察しがよいね、オジサン関心するよ」
「夜須さん、峰沢が何をしたんですか?」
相棒の若手刑事が戸惑うが夜須が告げる。因みに玲は学校指定の競泳用水着に着替えており運動服のシャツを着ているがそれでも若手刑事には目のやり場に困るようだ。場所もプール入口付近である。
「架空請求サギの出し子だ」
即ち現金を引き出す役目であり、先にしっぽ切りにされる……最近じゃ未成年者も多い。
「……それは補導で済まされない話ですね」
「先に主犯格が別件で捕まってな、で……判明した訳だ」
夜須もため息を出す程だ。
「しかも被害金額の何割か持って行かれた……タッチの差でね」
「分かりました」
「申し訳無いな」
「いえ、楠瀬の祖父からも警察には素直にと言われてますから……伯父には連絡は」
「しているよ……」
夜須は玲の表情を見る、冷めているように見えるが思いやる心はある。
kyouske
2018年12月14日(金) 02時00分17秒 公開
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