第二次性徴変性症5
・予想外認定者


斎藤先生は専用病棟と一般病棟をつなぐ渡り廊下に居た。そこに馴染みの先輩外科医と顔を合わす。表情が何時もよりも険しい。
「一体私まで呼ばれるって、何処の大規模事故ですか?」
変性症を初めとする第二次性徴異常症の専門医でも一度は外科を経験する、そんな彼女が呼ばれると来れば大勢の重軽症者が出る事故や事件に災害位だ。
「交通事故では無い、強いて言えば……新薬治験の最中に予想外の事が起きた、変性症の症例が出たんだ」
彼は斎藤先生にファイルを渡すがその表紙に機密やら部外者閲覧禁止と言うステッカーが何枚も張られおり管理番号まで張り付けている。
「はぁ?」
「患者は19歳男性……昨年の12月に隣町にある複合レジャー施設での爆発事故は覚えているな?その時に彼は全身大火傷で搬送された」
「ええ、当直明けでさあ帰宅って言う時にスタットコール、イベントで爆発事故が起きて専門外の私まで軽傷者を診る羽目になった、アレ……って!一番酷い重症を受け入れたの!!!」
斎藤先生は驚くも外科医の男性は呆れつつも告げる。
「仕方あるまい、隣町の総合病院じゃ手に余る……こっちも望み薄だったがね、色々とあってな……」
外科医の表情も呆れているが医療機関はボランティアで成り立っている訳でもないのだ。
「予想に反して命こそは取り留めたが……全身包帯だらけだ」
ベテランでさえもここまで酷い状況は見た事は無い……当初は年を越せずに死亡すると言う見解を示していたが半年が経過しても生きているが全身激痛から来る呻き声に看護士さえも怖がるとも言う。
「治験の噂位は知っているだろ」
「ええ、変性症絡みの研究もしている製薬会社やら大学研究機関が出入りしている事も……」
ファイルに添付されていた入学案内のパンフに眼にする、そこはかつて入試不正問題で大揺れした斎藤先生の母校だ……。
「またやらかした訳ねぇ」
「……直ぐに対処して貰いたい」
斎藤先生は頷くしかない。目的の病室は個室になっており隣にナースステーションがある。
「動かせるか?」
「変態が始まっているわ……彼の病室は滅菌状態よね?」
「そうだが」
全身大火傷とあって抵抗力を著しく失っているので半透明のテントが張られている。内部には幾多の点滴システムがあり如何に彼が重症であるのか分かる。
「このまま動かさないで、落ち着くまでは」
「無茶言わないでくれ……どうにか専用病棟に」
外科医の長が困惑するが斎藤先生も顔を顰める。
「……この状態で動かせばどんな後遺症になるのか後で実例資料でも見せないと分からないか、リー君後で頼む」
「柳教授……」
「上には既に話を通した、変態症例が収まるまではこの部屋を封鎖……」
初老の男は淡々と告げ、女性医師が指示通りに動いた。



唐突に自分に訪れた災難の時は今でも覚えている。大学生になって流れるままにあるイベントサークルに参加する事に……その冬にサークルの主催者である先輩がクリスマスイベントをする事になった、自分としては乗る気でなかったのだが……その方にバイトやら学科コースの選び方の世話になった手前、スタッフとして関わる事になる。複合レジャー施設内にある屋内プールを貸し切って芸能人(とは言ってもアイドルでは無く、売り出し中の芸人)をゲストに呼んでの学生らのバカ騒ぎ……そんな時だ、参加した客数人がステージ上に置いてあったカラーパウダーが装填していた噴射器を扱い始めた。静止の為に向かったがステージを照らすライトの熱に発火、自分は炎に包まれた。


気が付いた時には全身の激痛で左目だけからの視界しか見えなかった。事故から一ヶ月後の事だ、重症は自分だけであり死者は出なかった、事故を起こした客数人は既に刑事告訴……それが親父が依頼した弁護士から告げられた事実だ。更に大学側も諸事情を組んで休学処置、ただイベントサークルは事故を重く見て主催者である先輩は解散させた。これにはOBも同意したらしい。更に自分は長くは持たないと言うのが主治医らの見解だ。無理も無い、あんな炎に包まれていたのだから……数日後、弁護士立会いである製薬会社と治験契約を結んだ。聞けば自分が延命出来たのは製薬会社とこの医大が共同開発した治験薬によるものでこれが無ければ死亡していた、意識が戻る見込みがあるのでこの先の治験に関しては両親と兄と姉は同意し後は自分のサインを待つだけであった。殆どが入院費や治療費に相殺されるのも覚悟だ……。
「では高城 直哉さん、よろしくお願いします」
自分は頷くしか出来なかった。


治験薬を持ってしても全身の激痛は逃れる事も無く、呻き声を出すしかない……カラーパウダーの主原料はトウモロコシを粉状にしたモノ、一般的にはコーンスターチって言う食材にもなる。それが大量に舞ってある程度の密度で発火や熱を持っているモノに触れると燃える、粉塵爆発を引き起こすのだ。
「直っ……良かった、気が付いて。あっしゃべらないで、分かっているから」
滅菌テント内に完全装備で来た女性が幼馴染の江月 紗里奈で同じ大学に通っている、イベントサークルに参加するのも彼女が入会したからだ。
「オジサンもオバサンも仕事で忙しくって……」
分かっているさ、兄も姉も同じ理由だ。最も自分は母親から産まれた訳ではない……ここまでするのは世間体に配慮って言うもんだろう。
「これ会話用デバイス……本来は筋ジストロフィー向け仕様だけどね」
彼女は工学科に居るからこの手の機材は強く頷く事しか出来ないと聞いて直ぐに調達したのだろう。直ぐに視線に来るように器具を取り付けはじめた。まず分かったのは自分の男性器は無いと言う事だ……恐らく壊死したのだろう。主治医も看護士も黙ってはいたが感覚が無いのだ……排尿の管を取りかえるたびに思い始める。
「(このまま死んだ方がよかったかな)」
例え治験をしても退院できるかは医者でも判断できないと言うのは分かっていた。



季節は進み初夏、何時のも様に治験薬を投与される。相も変わらず包帯がびっしり巻かれた状態だ。
「今回は自信作って言ってましたよ」
直也はセットする担当医に直ぐに会話デバイスに文字を入力する。とは言えスマホみたいなものでテンプレを組み合わせての文章になっている。因みにAIにより天井にある監視カメラ映像判断で異常を知らせる仕組みらしい……ナースコールも押せないのだ。
「でも皮膚が再生はじめているし……驚いてますよ」
寧ろここまで自分が生きている事に驚いている。ふと景色がぼやけ、医療器具からの複数の警告音が鳴り担当医がナースコールを取って叫んでいた。



   短い人生だったな



自分に言い聞かせた……だがそれは間違いであった事は目が覚めて直ぐに分かった。







kyouske
2018年11月21日(水) 13時01分41秒 公開
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