第二次性徴 変性症 22
・意外な繋がり


「玲ちゃんの事は揚博士から聞いていたから」
「?」
「彼は変性症研究の遺伝子解析のパイオニアでもあって、私の両親は患者団体を立ち上げた初期メンバーなのよ、その時に楊博士と顔見知りになっているしね」
「あっ!」
玲の納得した顔に錦さんは笑顔で言う。
「今の様な研究体制や発症者のその後社会生活を整えるにしろ法律に抵触する事もあったから苦労したけど、当時国会議員していた方で身内が発症、アッと言う間に関係省庁動いて実現したのよ」
「そうだったんですか」
「慌てる与党執行部に円城寺議員が噛み付いて他の党員との押し問答の末に退席にした事もありましたね」
欅沢が思いだしたように言う、何せ報道陣がまだ撮影している時に言い出したのでしっかり報道された。最も当時の与党執行部もボロボロだったので円城寺議員の党首獲りの前触れかと騒がれた。
「……あの人凄いですよね」
「変性症が確認された時点で色々と動いていたけど、当時の執行部はそれほど重要視してなくって……与党議員の身内が発症した途端に動いたからね。そりゃあ激昂するって」
当時の事を知っている錦でさえも今でも呆れてしまう。
「あの先生って昔からそうだったし……」
「知っているの?」
「母の実家が料亭をやっているんです……祖母が同世代ですから」
「なるほど三箸鴉の」
「知っているんですね」
「仕事上、お客さんの趣味も耳に入ってくる事もあるからね……最も円城寺先生は色々と働きかけをしていたから……そうなるのも無理は無いわね」
錦はクスッと笑う。
「最近も結構動いたでしょ?……あの人は役所を動かすの十八番だから」
「!」
「ウチの社長もヤリ手ですからね」
玲の驚く表情にも二人は動じない。
「そうだ、リーちゃんもよんじゃおうか?」
「知っているんですか?」
「ええ、赤ん坊の頃から……東京に来た時には子守もしたわよ」
錦さんはスマホを操作する。


「錦さん……はぁ」
「お久!リーナちゃんもますます美少女ぶりにナッテオネエサンうれしいわぁ」
スマホにより錦の現在地を知ったリーナは天を見た。玲も何れは関わると思ってはいたがここまで早いとは。
「で……背後の方は?」
「安心して、今一つ卵建(うだつ)が上がらない芸人か役者だけど好きなのは熟女だから」
「……ソレッテ安全牌ッテイウコトデスヨネ?」
あのリーナをここまで困らせる他人なんて限られる……それだけ錦さんは楊一家には縁がある人と玲にも理解出来る。
「……オレ熟女好きナンテ何時公言シタノデスカ?」
「……錦さん、旦那さんと息子さんほっておいて大丈夫なんですか?」
「結婚しているの!?」
「ええ、今頃はトラックの方に居る筈だから……ダーリンは」
錦はケロッとして左手薬指にしている指輪を見せてスマホを操作する。


灰色の学生時代を過ごした錦は同級生とは距離を取っていたから恋愛もしなかった。そもそも自分を女性として認めて貰ってないと感じていたからだ、部活も参加義務があったが事実上の免除になったのも同級生との衝突がきっかけであった。“スポーツは健全な魂が宿る”なんて虚構だ……宿るのは醜魂だ、錦の扱いに困った学校側は彼女が不登校に至らない様にするには事実上の免除にするしかない。結構PTAからも苦言が出たが最終的には学校の面子と他の生徒への悪影響への懸念からPTAも下がった。最も事を大きくすれば文部科学省まで事案解決に乗り出しかねないしマスコミにも知れられるのを恐れたからだ……。


バイク便運営会社にて夫と知り合ったのは高卒正社員として入社して間もない頃だ。当初は互いに気にもしなかったが錦が原付から中型に乗り換え仕事も同じエリアやルートになると話す機会が増えた。彼も程無くして錦の過去を知る事になったのだが……離れる事も無く距離を詰め、交際に発展した。数年後には互いの両親にも紹介し結婚の運びになる。錦の両親にとっては予想外とも言える。
「で……錦さんがここに来たのはイベント参加だけじゃないですよね?」
「うん、楊博士が熱中している遺伝子サンプル提供者も見たかったし……」
リーナはわかっていた表情になり錦はケラケラと笑う。
「……まさかと思うけど、押し倒してないよね?」
欅沢は直ぐに察したが黙っていた……今どきの女性は異性も同性も恋の対象になる事は分かっている。
「それはないです」
「今のところは……まっ玲ちゃんもこんな胸だから用心しなさいよ」
「……もう数度トラブルになってますけどね」
リーナは遠い目になるがまだ序の口だろう……。




程なくして市民体育館内に入る……こちらは三沢自動車と業務提携している外国車メーカーが複数集まっており商談ブースも設けられている。外車も故障が多いと敬遠されたが今では日本車並に品質が向上しており、侮れない訳だ。
「仁伯父さん」
「ああ、玲か……問題ないか?」
「うん……欅沢さんのおかげで」
仁もトラブルの事は把握はしているのでホッとした。
「買うの?」
「いや、仕事の資料……ウチも時折車載車では無理なモノも陸送も請け負うから」
外車メーカーの各種パンフを丁寧に鞄に入れつついう。
「あのスカニアも結構な買い物だったしな……自家用車は暫く買い換えないよ」
「仁さんも丸くなったわねぇ」
「ああ、来ていたのか……旦那と息子さん見かけたからもしかして思ったが」
「?」
「旦那さんの父親とは知り合いでな……時折応援に行く事もある」
「だから知っていたんだ」
「まあ、ダーリンはバイクが好き過ぎて家業を義兄に押しつけたけどね」
「……大丈夫なんですか?それ?」
「まあ本人らも納得しているし、ダーリンは飛脚便できるからね」
黒馬運輸には緊急を要する荷物を飛脚便としてバイクで運ぶシステムがある……無論荷物形状で出来ない場合もあるし料金も高いがそれなりに需要がある事を表している。
「確か四tまでは運転出来るよな?」
「はい……」
「何れは戻るんだろうなぁ……バイク便も危ない事だらけだしな」
バイク便のリスクは事故だが圧倒的に死亡事故に直結する確率が高くなる。錦の会社でも数年前にベテランライダーが高速で事故に遭遇してしまい、回避が出来ずにコケてしまいバイクはフェンスに激突し廃車、ベテランライダーも大怪我でドクターヘリでの緊急搬送、幸いにも荷物は黒馬運輸の書類の社内便であり中身は無傷。事故現場のすぐ後ろに居た黒馬運輸のベース間運輸業者がとっさの機転で目的地のベースまで運んだ。とは言え錦が所属する会社にとっては手痛い損失と言うのは変わりは無い、加害者では無いとは言えベテランライダーは半年以上も入院を余儀なくされ家族の説得もあって会社側も管理職に異動、即ち引退である。その為錦も彼女の夫も益々忙しい身になる。
「でも、彼辞めませんよ……下手したら孫が産れる時までバイクに乗っているかもしれませんから……」
仁はやや納得した感じの表情をする。
「えっと、お手洗いに行きたいけど」
玲が女性になって実感したのがトイレの回数、どうも女性は男性よりも膀胱が小さいので自然と回数が増える。市民体育館は空手の大会で何度か訪れた事があるのでトイレの位置は分かる。
「私も……」
リーナも付いていくのは玲が間違って男子トイレに入らない様にする為だ。脳の状態が男性のままである事もあるのだ。




市民体育館のトイレは数年前に新しくなり障害者対応を兼ねた多目的トイレが増設、体育館は回廊部分は常時開放されているので乳児や幼児連れの散歩コースとして、営業回りのリーマンにとっても回廊部分には自販機もあるので休憩や待ち合わせ場所になる訳だ。
「はぁ」
玲は小水をしてトイレットペーパーで拭く習慣も身に付いた。入院して女性化してから何度かこれを忘れて下着を汚して赤面した事もあったがちゃんと拭く様になったのも脳がちゃんと対応している証拠だ。
「(そう言えば錦さんの時はカウンセリングとか無かった……)」
実際、錦の時はとにかく健康面に重点に置かれており精神面のケアは全く考慮されてなかったが徐々に医療支援体制も改善された。まあ錦の場合は高卒で今の職に就けたのは幸運とも言える……初期の変性症発症者の中には正規雇用所か高校ですら通えなかった事例もある。その為文部科学省は変性症発症者の通学拒否する学校に対してはそれ相応の行政処分を執行する構えを取り、幾つかの名門女学園の運営メンバーが刷新された。
「お待たせ」
洗面台前の大きな鏡で髪の毛を整えていたリーナに声をかけるとリーナも振り向く。イベントの最中なので手早くしてトイレから出た。そうしないと並んでしまうからだ……会場各所には移動式トイレも出来る限り配備しているが夏真っ盛りでは混んでしまう。
「……錦さんの時って大変だったんだね」
「彼女は運が良く居場所見つけられたけど……自殺した人もいるからね」
「……」
「私の父親はそれを知ってこれをライフワークにする事にした、どうして起こるのか……バカだよね」
「誰かがやらないと」
玲はそう告げるとリーナは頷いた。父親の仕事に理解を示してくれる人間なんて限られている、別の病気を研究してくれとかノーベル賞取れないとか……最も父親はそんな俗世な連中とは距離を取っている。特に祖国の連中とは……父親は祖国の事はあまり良くは思ってない。
「お待たせ、伯父さん」
「おう、欅沢さんがトイレに行っているからまっておけ、玲」
娘が三人とあってか扱いには慣れている感もある。
「あれ?将さんの所の……仁さん?」
「おぁ!なんだ宮島かぁ……変性症になったからな」
如何にも昔ヤンチャしてましたと言う感がある宮島と言う男は驚く。
「ほれ、何度かお年玉貰ったオジサンとか覚えてないか……河元 エイジだ」
「「あっ……」」
リーナも玲も漸く顔が一致した、空手道場の稽古初めに何度か見た事がある人で楠瀬家とは親交があるらしくお年玉をもらった事もある。
「ここ数年は県外で年越しだったからな」
見ると手には外車のパンフが入った紙袋を持っており何れも家族向けだ。
「ジムニー党じゃなかったのか?」
「まあ、嫁が嫌がりまして……車内浸水して」
玲らはキョトンとなると仁が言う。
「渡河か深い水溜りでもやったのか?」
「はい、渡河していたら増水していてスタックして……もう嫁に自動車与えんとヤバいと思いまして……外車もよいかなぁと思いましてね……」
「恐妻家だったな」
「はい、嫁さんが来たがっていたんですがねぇ……」
彼は薄ら笑いをした。
「玲ちゃんもこの前までは可愛い小学生だったのが……こりゃあオジサンも手出しできないわ、本当に後悔しちゃうわぁ」
手出したら玲の父親か嫁さんの鉄拳が顔面目掛けて飛んでくる事は間違いない……それほどの守りたい美少女であるのだが……本人は自覚してない。
「まっ、道場にも顔見せておけ。日比谷の爺さんも元気だしなぁ……」
「……まだ、引退してないんですか?」
「あの人は何時地獄に行くのかこっちが知りたい位だよ」
仁は呆れる表情は分かる気がする、この分だと曾孫が出来るまでこの世に居ると思うリーナと玲である。
「では、また……」
二人は会釈する。
「流石に丸くなったなぁ、昔はジムニーを山中で横転させたり人工の池の中で横転させていたのに」
「……」
「何度か県外で自走不可能に陥ってな……まっ、親父が建機を降ろして戻ってくる序に載せた事もある……」
「……そうだったんですか」
「本職は自動車修理工だしな……最近は工具や予備パーツを搭載して遠征しているからなぁ」
仁も何回か見た事あるがどうもトライアル競技の愛好者らには知られているらしい……貰った名刺にはHPとLトークのアカウントが記載されていた。


錦と欅沢がトイレでの用事を済ませトラックの方の会場に戻る事にした。
「佐伯さん」
「どうも、お疲れ様です」
聞けば一族の出資先への挨拶周りが一息付いた所だ。飛鳥は深く仁に向けて頭を下げる。
「楠瀬社長、先月は助かりました」
「こちらこそ……あの社長さん大丈夫か?」
「はい……この前玲さんの名字でもしかしてと思って、聞きそびれて」
「父の兄、伯父さん。父は建設会社勤めだけど、仁伯父さんは楠瀬運輸の社長をしているし、兄も社員……」
玲が言うと飛鳥は納得する表情を見せた。
「そうだったんですか、確か子供が三人いるって父親から伺っていたので」
「飛鳥お嬢様、後は大丈夫ですので……ご自宅に戻られますか?」
「いいえ、あの件も玲さんに話しておこうとおもいまして……」
執事と言う感がある若い男性が会釈し少し離れてスマホを操作する。


「……玲さんは七森女学園の事は知ってますよね」
「うん、地元所か全国区レベルの超名門女学園」
「戦前から続く名残で学生寮も完備、私もそこに通わされそうになったわね」
リーネは遠い目になったのは自分の我儘で玲と同じ小学校に通う事になったからだ……最も幼稚園児とは言え既に男勝りな自分が到底お嬢様キャラでは無い事は両親も知っていた。
「実は地域交流の為に平日の放課後と長期休業の最中はサロンを開いてます」
「サロン?」
「と言っても、事実上はサテンですし従業員も生徒です」
案外好評であり年寄りから子供連れのママなら知っている場所だ。
「近いうちに他校の女子生徒も参加させる手筈になってます」
「「はい?」」
「是非、玲さんに参加してほしいのです」
「……待った!それなら私もいいかな?」
「是非、教授には世話になってますので」
楊博士は佐伯財閥が出資している医療法人が経営する医大にて非常勤の教授をしている。
「他校の生徒に参加って言うと……翠ヶ丘文化総合際?」
「そうです、各校には二学期始業式で告知される手筈になってます……既に生徒会長に承諾取ってますので……」
飛鳥の笑顔が邪険に見えたが玲は薄ら笑いをするしかない。
「でも、どうしてまた?」
「実は私が慕っている高等部の御姉様の悩みがサロン内での主導権争いなのです、これまではバックヤードでの口喧嘩で済んでいたのですが、遂に今度のイベントで対決して負けた方がサロンの活動を辞退するってなって……」
仁ですらキョトンさせる言葉だが飛鳥の表情は曇っている。
「つまり、他校の生徒を混ぜる事でフォローさせると……なあ飛鳥お嬢さん、その主導権争いしている上級生の親も」
「はい……仕事上のライバルと言う事で……先生方も立場上、中々対処できないらしく。佐伯家も第一次世界大戦後の成金の一つでしたから、あんまり強くは言えないので……」
飛鳥は苦笑しているが佐伯家もここ数年は安定してはいる。やはり従兄が努力しているらしく出来る限り現場に赴くらしい……最もそれは七森女学園の常任理事は辞退する利用でもあるが、ここは飛鳥が入学したので学園側も承諾した。
「まっ、有力者ならそんな事になるわな……その主導権争いしている御転婆お嬢様は?」
「この方です」
スマホの画像を見せると何かのイベントなのか微笑ましくツーショット……にみえるが仁や玲が見ても“営業スマイル”と分かる。画像から黒いオーラの様なモノが見える気もするのだ。
「向かって左側に居るのが天原 瑠璃子さん。天原財閥現当主の孫の一人……右側に居るのが沖田 礼子さん……沖田グループの現当主一人娘です」
仁はあちゃと言う表情を見せて言う。
「両方とも取引相手になっている会社の出資元だよ、取り巻きとか分かるかなぁ?」
執事がスマホを操作し仁のスマホに画像データを送信、それを見た仁は天を見た。万が一破産されると楠瀬運輸にも影響が及ぶので仁にとっては見逃す事は出来ない。
「(娘のスキャンダルで会社が傾く事は勘弁してくれよ)」
仁はスマホを操作して思う。取り巻きの少年は学生時代からの友人や知人に訪ねた方が事が進み易い、楠瀬運輸だって取引先が報酬が未払いのまま倒産と言うのは避けたいのだ。



「……仁さん!スマッセン!」
トラック会場に付くと少し人相が悪い男性が頭を下げ、仁はうっとおしい事に予感的中した顔になる。
「やっぱりかぁ……よりによって七森女学園の生徒にタカっている奴がまた出ていたか……」
「またって?」
「加害者家族が裏で手をまわしてなヤリ過ぎた奴がスッと消える事がある、俺の学生時代には数人出てな……将やそこにいる青柳に地元の族らも探したが見つからなかった。数年後に特殊架空請求詐欺犯の一味として指名手配、後はお決まりのコースだ」
逮捕され実刑確定したと言う事だ……その後は再犯を繰り返す者もいれば更生した者もいるし連絡が取れない者もいる。仁にとっては苦い思い出だ……。
「正弘の時も出ていたな……最も被害者側が穏便に済ませたから失踪までは至らなかったが……大学進学も辞退する事になったな」
将が知っているのはこの事は正弘から聞いており、最終的には介入した。こうでもしなければ加害者もその家族も崩壊していた……。
「将さん」
「そいつらの連絡先は分かっているな?」
「……今日にも言い聞かせますから、玲の一件もありますし」
「?」
「スタンガンで障害事件を起こした奴を知っているな?」
「!」
玲は驚くと彼も理解したのか言う。
「アイツは赤ん坊の頃から知っている、こんな事件を起こしたのは借金なんだ」
「どう言う事?」
「元沖田派の番長だったけど集り過ぎてな……」
つまり金ヅルから縁を切られたので金銭的に追い詰められ、借金している相手から非合法のAV制作を持ちかけられたのだろう……男は苦々しい表情をしているのはその借金している相手にも心当たりがあるからだ。こんな事もあるので飛鳥が心配になるのも無理は無い。
「七森女学園は超お嬢様学園と思われているけど、大なり小なり問題児が集まってくる所よ、佐伯さん」
「お、おねえさま!」
「貴方が色々と心配して動いている事は分かってましたが……その、部外者を巻き込む事は」
玲でさえも一目見て綺麗で深窓越しに見る庭の姿が画になる程の美貌の少女は飛鳥に軽く叱っているがそれでも許してしまう……。
「はじめまして、私は十条 久子と申します」
「もしかして十条建設の……」
「はい、祖父が創業した会社です……楠瀬運輸には何時も無茶な事を強いて申し訳なく、社長に代わって礼を……」
将の言葉が終らぬうちに彼女が頭を下げた……と仁が首を横に振る。
「……仕方ないさ、建機の輸送は制限がかかるからね。それに社員の不手際を直ぐに指導してくれる社長の手腕には感謝している」
「気遣い感謝します。その今回の件で娘を巻き込むのは」
「大丈夫さ……前は少年だったからな」
久子はキョトンしたが直ぐに玲が飛鳥と同じ変性症である事は理解した。
「まぁ……大変でしょう」
久子も高校生にしては可也の巨乳である……故に玲の胸を見て思わずこの言葉である。
「はい……えっと」
玲の言葉の迷いに久子はニコっとして言う。
「名字でも名前でもお呼びしても大丈夫ですよ、学園生は上級生なら御姉様と最後に付けるのは慣習の様なモノですから」
「十条さん……佐伯さんの事は気を使っているのですね」
「ええ、中等部や高等部から外部入学生徒は幼稚部から生徒の差別の対象になり易いので……ただ佐伯さんの場合は学園創設者の一族ですから余計に器を使ってます、出来ればカフェの件も……」
「十条、彼女なら大丈夫さ……」
髪の毛をピシッと立たせた男が言うと玲はハッとした。確か兄の後輩で時折自宅に遊びに来てその度に夕飯を食べていく人だ。確か高校三年生の……。
「先輩からメールで知った時には驚いたがここまで美少女になるとはなぁ」
「櫟さん、お久しぶりです」
玲は頭を下げると彼も軽く頭を下げる。櫟 一輝(あららぎ かずき)は笑顔からキリっとした表情になる。
「事情は分かったから取り巻きに関しては穏便に事を進めます」
「受験大丈夫なのか?」
将が心配そうになると櫟は言う。
「親父の会社継ぐなら大学で無くビジネス専門校の方が……そっちの方がトラブルが少ないで済みますからね」
「あの、スマホの番号を……」
玲は操作して櫟のスマホにアドレスと番号を送信しておく。
「兄には後で話しておいた良いですね」
「是非」
最もその様子を正弘は見ていたが会社同僚と恋人が制止していた事は後から知る事になる。



夜の帳が下りるとナイトシーンと呼ばれるイベントの始まりだ。昭和の頃はそれこそネオン広告や世界的に有名な遊園地のパレードイベント宛らの電飾を纏っていたデコトラもあったが今はLEDライトを最低限度に装着したデコトラが主流だ。理由としては夜間の高速道路にある……都市と都市を結ぶ区間は照明が最低限度しか無い区間も多い。それ故に事故防止の為にも法規制ギリギリでのLEDを装着している。
「綺麗……」
広海は声を漏らす。シャイニング時代に何度か先輩アイドルグループの野外や競技スタジオライブの際にバックダンサーとして出演した事もある。この手のライブは音響から楽器に照明やらは大型トラックが二桁台数に達する事も珍しくない、最終日になると大型トラックが駐車場に集結している光景を幾度か見た事もある。
「お嬢さんは初めてかい?」
「はい、あの愛好家ですか?」
広海の隣にてプロか趣味の人が使うカメラを手に持ち撮影する男が話しかけたので彼女も応じた。新人でもなく油がノッテいる感がある。
「仕事と趣味半々だよ……お嬢さんは地元じゃないのかい」
「引っ越したばかりです」
嘘は言ってない、広海の都合で引っ越したのも事実だ。幸い通っていた学校は芸能関連の学科もあるので挨拶無しに転校も偶にあるらしい……自分の場合もそうなったのは登校すれば夏休みでも学校運営に支障が出るからだ。クラス委員がメールで伝えると張り込んでいたパパラッチは天を仰いだそうで……仮に撮影された所で自分には芸能界復帰は無いので損するだけだ。
「ここに居たのか?」
兄の言葉に頷くと隣に居た男性も横眼でチラっと見る。大体父親と同じ位年齢だろうか……。
「兄です」
「……もう遅いから帰るぞ」
広海は会釈し兄と共にその場を去ると男はため息をつき、イヤホンマイクをセットする。
「……ったく、こんな美人になるとはねぇ。シャッター押せないとは……」
『……昼間のロングでの撮影数枚のみになりましたね、黒さん』
「確証は得られない以上は……だが美人過ぎると色々大変さ」
彼は電子タバコを咥えると思う、シャイニングの会長も中々の悪役だ。









kyouske
2018年06月27日(水) 02時13分28秒 公開
■この作品の著作権はkyouskeさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ


この作品の感想をお寄せください。
感想記事の投稿は現在ありません。
お名前(必須) E-Mail(任意)
メッセージ
評価(必須)  削除用パス 


<<戻る
感想管理PASSWORD
作品編集PASSWORD 編集 削除