第二次性徴変性症 17
・ハンター達の仁義


県立医大病院のロビーのすぐ横にあるカフェテラス席にてコーヒーを飲んでいた男はため息をつく……宮島 海の少女姿を特定するのは困難だ。第二次変性症は骨格も背丈も変わる事もある、事前情報で彼女はこの病院に搬入されており退院時には女子中学生/女子校生制服姿になっている事は分かっていたが……人の出入りが多過ぎる。布製筆箱に仕込んだカメラは正面出入り口を向けていたが……少女になった顔写真が無いのが致命的だ。
「(モーニングセットでこれ以上粘るのも野暮だ)」
ポロシャツにスラックスと言うダンディな男を演じたいた彼はノートPCを閉じ、鞄に入れる……そしてCGIカメラを仕込んでいた布製筆箱と手帳を放り込みショルダーベルトを持ち肩にかけた。そして食器が載せたプレートを返却口に置く……店員さんのあいさつも聞き流して外に出るとスマホを操作して話す。
「ああ、俺だ……やられたよ」
『貴方らしくないですね……』
「互いに今の職は失いたく無いだろ、高麗スターでもおっかけている後輩らに期待な」
『それでは、私の立場も』
「俺の勘だがこれは背後で大物が蠢いている……編集長、貴方の上司も庇いきれないほどの相手だ」
『……』
「俺はどうにでもなるが、編集長は家族が居る……何上司も分かってくれるさ」
『そうか、じゃ』
男は馴染みの編集長には期待外れをしたが誤報が一番やってはいけない事だ。
「三箸鴉会のここに居るって言う事は伏せておくか」
男は時折グルメ雑誌に掲載する写真撮影もするので三箸鴉会の事は知っていた……偶然にも料亭神田川に入る所を目撃した男はため息をつくがある意味ではよかったかもしれない。政財界に芸能界の大御所揃いとなると危ない。
「さてと後輩ちゃんは良い画が撮影出来たかな?」
関東医大にわんさかとマスコミが集まっている事は知っていた。まっ、TV局が欲しがる映像は撮れないだろう……それにしても無茶をしたもんだ、米軍のティルトローター機を夜間に市街地に着陸させた、幾ら国際人道的観点を通したとしても市民団体が騒ぐ……案の定関東医大前で抗議する市民団体の姿も報道されたがお門違いも良い所だ。
「おっ、黒井だ……どうだ?」
『黒さん先輩っ!無理です!完全に院内取材シャットアウトです!!!』
パニくっているのか男はスマホから耳を遠ざけた。
『無理に取材を仕掛けたフリーが出て……今西さん先輩が撮影を試みてますが』
「無理はするな、時機に患者側から会見が出てくる」
『そうですが……それじゃあんまり報酬は……』
「……何、また売れないアイドルやレイヤーの撮影でも引き受けて、ぼちぼち喰えるネタを探ればいい。今回の騒動は政財界にも波及するから野党の党首でも狙うか……」
黒井は撮影するターゲットが何処に居るかは察してはいたが撮影する事は諦めた。




国立関東医大病院前にマスコミが押し寄せるのは初めてではない、医療ミスや事件やらもあるので行き過ぎた取材行為に対しては相当厳しい。患者や通院者に影響が出ると厄介な事になりかねない。今回も出てしまった……。
「アイツ、終わりか?」
「ああ……相当切羽詰まっていたらしいな」
明日は我が身かもしれない……二人は長年の顔馴染みらしく関東医大病院の玄関前から少し離れた場所で脚立の上で無茶をしたライバルの話をしていた。
「はい。黒井さん……お疲れ様です」
すぐ傍でため息をついた女性カメラマンに気が付く。
「黒は来ないのか?」
「例の一件で粘って見ると……」
「ああ、あれも結構速い段階で規制が出たな……」
「兄貴の一件もあるんだろうよ……あれで裁判沙汰になりそうな記者も居たからなぁ」
宮島 カナメの一件は今でも教訓として記者やカメラマンの間では覚えられている……。
「……あっ、両親が出てきました。医者も……」
戸惑う表情から見てやはり死亡したのだろう……無理も無いあんな大火傷でよくここまで生きてこられたのも十分な奇跡だ。
「……マスコミの皆さん、まず例のアイドル少年は一命を取り留め危険な状態を脱しました……ですが性転換の症例が出てます」
ざわめく記者とカメラマンらを余所に医者が説明をする。
「細胞再生促進の新薬とナノマシンによる効率化を図ってましたが、カラーパウダーの原材料であるトウモロコシがナノマシンによる遺伝子操作された品種であり……カラーパウダーに残留していたナノマシンが何らかの原因で暴走……結果性転換の症例が出てます」
「影響は!他の人に」
「ナノマシンに関しては対策が強化されてますので……」
医者は淡々と説明した。国公立の医療機関及び医療研究機関では感染症対策が最上級レベルであり法定伝染病蔓延やパンデミックを起こさないと言う。
「彼、いや彼女の戸籍は……」
「国際条約に沿って在日高麗国大使館に外務省を介して通達済みです。既に性別を変更した仮旅券の発行手続きに移っております」
これはどの国でも実施されている、仮旅券とは従来は海外での旅券の紛失や盗難に逢った際に帰国まで合法的に滞在出来る書類の事だ……。
「彼女の状態を安定にする事が当面の目標です……」
「目標?」
「この様な前例が無い症例は我が医大病院では手に余るので……」
国公立でもピンからキリまであるのだ、関東医大の教授らも苦々しい顔でマスコミらは察した。


会見が終わり、彼女は横に居た西澤 一を見る……遠距離から幾度のスプークをモノにした“スナイパー”であるが今回は関東医大病院の病棟レイアウトと周囲の建造物との兼ね合いで早々に諦めて不貞腐れていたが医療機関次第ではスプークのチャンスがある。
「西さん……恐らく彼女はアメリカの医療機関に移送されますよ」
「ほう」
「アメリカの医療機関はPRには熱心でこれは丁度良い症例ですから、いろんな理由を付ければ……」
「在日米軍まで動くって言う事か」
「高麗国の医療技術はあの事件で信頼度は全くないですからね……政府も従うでしょう、安全保障の為にも」
「……で国民は不満だらけで日本叩き」
「それは双方の外務省も織り込み済みです……その結果が齎す事は何になるでしょう?また経済危機ですね」
「それで済めば御の字と言う表情だな、流石に親譲りの読みだ」
「……母親は今の私を捨てた、あの人は利用しようとしたから……」
そう、黒井の後輩は変性症により女性になりシングルマザーの母親が“保護責任放棄”した……そして遺伝子上の父親の元に預けれられるも目的は戦略結婚の道具として手元に置きたい思惑を知ってしまった。そして彼女は政治家をしていた遺伝子上の父親に復讐をしたのである……政治家生命を断つ不正証拠を黒井と西澤に売り込んだのである……そして失脚させた。彼女はそのままこの世界にいる。
「プランBで行きますか……自動車に金をつぎ込む輩の撮影会に」
「鋭いなぁ……」
二人はこの時は諦めていた……。



ハイルーフスリーパーで転がる広海はノートPCで関東医大の記者会見を見ていた……会見が終わりスタジオが映ると彼女はウィンドを閉じ、無言になる。
「……」
彼とは以前に数回程度ある番組で共演した事がある、当時高麗国大統領の無謀な政治パフォーマンスによく高麗人アイドルを使っていたので日本じゃ矢鱈批判されていた。そんな時にスポンサーとプロデューサーは番組企画をしたから他の高麗人アイドル少年も所属事務所側の人間でもピリピリしていた。そんな時に仲を取り持ったのが彼でトラブルも無く収録も終えて放送出来た。だが高麗国のネット住民はそれが気に食わないようでよく殺害予告も出ていたようだ……最もそんな事をすれば数日後には警察の特殊部隊が踏み込んでくる事もあると言う。噂だが殺害を簡単に請け負うコリアンマフィアは隣国から密入国してきた軍隊崩れを使う事もあるので高麗国警察としては躍起になる……最も依頼者が捕まっても警察内部に居る情報漏洩者が知らせるので中々逮捕に至らない……隣国は冷戦時代から続く共産主義体制でしかも国家主席が建国時からの一族支配が続くと言う最悪な状態、そこでも変性症の問題は深刻であり粛清の対象になりこれが多数の軍隊崩れを産み出している……体制引き締めを図るも崩壊は止まらず終いには国家主席の子が全員少女になっていると言う噂は敵国である高麗国の場末の酒場の与太話になる始末で彼も笑い話にするほどだ。
「……宮島さん、もう少しで作業が終わるって……」
玲が声をかけると広海は頷く玲も分かる程、彼女は何処かで自分の身体に違和感を覚えている……。
「……いや~本当に大きいわぁ、こりゃあ負けたわ」
玲はその声の主に聞き覚えがあった。岩崎 美亜である……楠瀬運輸に属する姫トラの一人だ。
「岩崎さん……その今回は」
「いいわよ、私ね宮島 広の事はファンで応援していたから……可愛くなって、う~んお姉さんが色々と教えてあげるわよ♪」
その意味は察したが敢えて言わない玲である……。
「警察とかバレませんのね?」
「……事故さえ起こさなかったら大丈夫よ」
そう言いつつもキーを差し込みスイッチを押してエンジンを起動させた。玲もシートベルトを装着する。既に学生服に着替えているが俗に言うコスプレ衣装である……。
「“学偵戦記 緋瞳のリサ”に出てくる高校制服ですよね?これ?」
「そうよ、しかも巨乳キャラのレイラちゃんカスタム、詰め物無しで……うん、ウイックとか用意したら再現できるわぁ」
この“学偵戦記 緋瞳のリサ”とはラノベ原作で今でも刊行が続き、アニメも第3シーズンが昨年放送された。柳瀬 レイラは作中ではお色気担当の巨乳キャラでコレで挿絵では必ずと言っていいほどセクシーな物で……自家漏電を覚えた奴が毎年出ると言う都市伝説すらある。最も彼女は登場当初は高校生男子で敵組織に捕まってしまい、薬物投与されたら性転換したと言う設定があるが可愛くしかも場学生高学年の身長に魔乳と言うべき胸のサイズと来れば世の男達に受ける……主役の楠 リサよりも人気がある事も頷ける。
「楠瀬運輸で下ろすからね……」
彼女はニコっとしつつも無線機のハンスフリーにする。CTスキャンも中古とは言え精密機械と変わりはない……衝突事故でもされたらたまったもんじゃない……なので補助資材を積んできたトラック数台を後ろに付け前方には先導車としてワンボックスカーが走るがこれはCTスキャンを納品した会社所有の営業車で専門技師が乗り込んでいる。無論彼らにも今回の広海の事を話しており直属の上司所か社長にも了承を得ている。



県立医大病院を出て一時間後には楠瀬運輸の社屋兼倉庫に着いた。社屋と言っても基礎を作って海上コンテナとして使用できなくなった廃棄コンテナを三個並列に並べて固定し更に二個積み上げて建造物として合法的に使える使用だ。元は普通の雑居ビルであったが昭和の終わりに建設され老朽化が激しく遂に建築士からの建て替える事を勧められたが……会社にとって相当な負担になりそうなると資金繰りも厳しかった……そんな時に仕事上取引があった建設会社がコンテナハウスの長期実用例を探しており祖父は直ぐにそれを社屋にする事に……。当時としてはまだまだ理解されなかったが近年では手軽に短期間で出来る事や海上コンテナの廃棄削減と利点も可也出ており楠瀬運輸も建材用コンテナ輸送も手掛ける様になり倉庫も建てられた。
「凄い社屋ですね」
「うんだから初めてくる人も迷わないからね」
コンテナはカラフルなモノが多く住宅地化が進んだとはいえ田園風景には相当目立つので地元のランドマークになっている。国道沿いにある好立地であるのに関わらずに再開発の話は出て無いのは近場にショッピングモールが複数あるのとこの立地ではマンションにするには基礎工事にコストが掛るからだ。後は経済の事情も絡んでいるので今しばらくは長閑な風景になる訳だ。
「玲か……」
「お祖父さん……」
少し若作りしている感じの男性が声をかけ玲は会釈する。
「ああ。分かっている……孫が息子から娘になっても変わらんよ。ほう綾音と茅野を黙らせた事はあるな……」
胸を見た祖父はニヤリとする、とっくの昔に枯れていると言う割にはお元気な爺さんだ。
「ははっ……で準備は出来ているの?」
「そっちの譲ちゃんの事は馬出から聞いておる……あ奴も忙しいのぉ」
二人は彼の案内で社屋に入りカウンターの奥へと通される。
「宇佐美、そちらの御嬢さんにお茶を」
「は~いっ、あっ玲従姉ちゃん!」
宇佐美が飛び付いてのそのまま軽く体をクルッと回した。流石に高校生の茅野も常時小学生の宇佐美の面倒を見るのは無理なので楠瀬運輸社屋で過ごす事が多い。歩道があるとはいえ大型車の往来も多いので周辺道路も抜け道になっている関係上それなりに事故も多く、人身事故も起き、数年前には複数児童が暴走車に跳ねられた事故も……後に警察は各学校との協議の末に通学路は通学時間時には通行止め(ただし通学路に面した住宅に住む住民の自動車は免除)にしたが当然他の地域のドライバーから文句が出た。ある時強引に突っ切ろうした若い男性に伯父は自転車で追い付き運転席ドアガラスを拳で叩き割りキーを引き抜いた事もある……当然喧嘩になるも武勇伝を持つ伯父に敵う訳もなく少し離れた場所から警察官が駆け付けた時には若い男性はK.Oされて頭に星が回っていたと言う。最も若い男性も以前から強行突破しており前日には下校時の通学路を暴走した動画をネットに挙げていたので伯父がブチ切れるのも無理は無くこの一件以降この辺り一帯の各通学路を突っ切る自動車はピタリと止んだと言う。
「どうぞ!」
宇佐美は手早く冷蔵庫からグラスを出して氷を入れジャスミンティーを入れる。冷蔵庫と言っても家庭用では無く、業務用でよくビール瓶がセットされているイメージがある。
「ああ、これは居酒屋を廃業した友人から貰ったモノじゃ……廃棄するにはもったいないと思ってなぁ」
楠瀬運輸には常に客が居る……同業者だったり取引相手だったりもするので夏場は常に冷えたグラスと茶が途切れる事は無く無粋に冷蔵庫を置くよりは業務用を置いた方が洒落っ気がある。楠瀬運輸の場合はジャスミンティーになっている理由は単に取引相手の中には貿易もしている方も多いからだ。
「おい、来たぞ。馬出に神山」
「………ご無沙汰してます。馬出会長に神山さん」
応接のソファーに座る人物に玲が頭を下げ広海は驚く。黒馬運輸株式会社の現会長だからである……所属事務所の先輩アイドルも黒馬運輸のCMに出ているので顔ぐらいは知っていた。
「神山さん、着物の事は神田川の大女将から聞いてます……その」
「気にする事は無い。わしらにとって孫同然なもんじゃ」
「そうだな……広海も着物仕立てるから待っていろよ……」
本当に枯れているのか疑問に思えるほど元気な人達だ。
「さて、神田川に行くか……」
神山はニッとして自動車のキーを出す。
「私が同席するから万が一スプークされてもこっちで〆るから安心してね」
「柳川先生も……あの」
「大丈夫よ、父親と子供達の会話に立ち会うだけだから」
「会話って」
「これからの話だ。離婚は認めたくないのだろ……それなら直に言うべきだ」
馬出は鋭く眼光が出る様な表情になる。



・定まる道



神田川の離れにて宮島家の今後を決める為の家族会議がされている。広海の他にも長男の弘之に長女のカナメ……そして三人の父親である健人がランチを食べつつも言う。
「……三人とも知っているが母さんが逮捕された、実刑は免れない。その上で離婚を切り出された。双方の実家も既に知っている」
「逮捕されたからって離婚しても犯罪者の子って言うのは変わりはないよね、世間の連中は自分がそうならないと辛さが分からないのよ」
「それに今回の事はシャイニングの前社長が主導しているって言う話だし……親父、離婚はするな」
「………」
「広海もそうなのか」
「うん、母さんは一人しかいないから……」
三人の子供は父親を見る。
「分かった、今度の面会の時にはそれを伝える……」
「こちらとしても減刑の手段を探ります、悪いのは強要したあの方ですから……今頃担当弁護士が迫っている筈ですよ、初犯者は罪認めて酌量の余地が得られ易いので」
柳川はニコッとして言う。
「まっ、あの家は従兄夫婦に任せる事にした」
「「「!」」」
「安心しろ、デリケートなモノは俺が梱包、後の食器やら家具やらは今頃黒馬運輸の引っ越し便の方々が持って来ている」
「……親父」
「はっ、はっ……こー見えても高校と大学は引っ越し便で結構稼がせて貰ってねぇ……子供がもっちゃあいけない本のありか位は察しがつくもんさ……正弘はパツキンねーちゃんが好みって言うのは意外だったな」
「……」
自慢げにドヤ顔された父親をカナメは薄ら笑いをする。
「えっ……じゃあどこに住むの?」
「この近くに祖父が有している里山がある、勝伯父さんが管理しているが裏側は切り崩されているのは知っているな?」
「確か大雨で崩れてその後再開発かで道路の拡張計画が持ち上がって……でも他の地権者がやたら反対していたよね」
「勝伯父さんな、そこにコンテナハウスを設置しているんだよ」
「あの工事現場横にある様な……事務所兼更衣室の様な」
「いいや、廃棄された海上コンテナを利用してちゃんと住めるようにしているんだ」
「確か」
「総合商社に勤めていたが一身上の都合で退職して農園始めたって……」
「あれな、単に上役の権力闘争に巻きもまれて……でカナメも広海も芸能人と言う事で結構週刊誌のネタにされてな……情報を漏らした同僚や上役の不正を検察にコクって辞めたのさ」
「「「……」」」
三人とも絶句したが柳川先生は思い出した、不正の証拠を掴んだ検察は動きは速く権力闘争所では無くなった上役らはそろって手錠……同僚も会社を自主辞職に追い込んだ。
「で、故郷に帰って近所で農家の手伝いしているうちに件の再開発が持ち上がって道路の拡張が出てきた……しかし正弘の言う通り道路拡張する必要が生じる筈のショッピングモールの計画がとん挫、そして手伝いに行っていた近所の農家らの高齢化で農地譲渡され今に至る」
父も呆れる程の変わり身であるが意外と経営が安定しており、後は身を固める(=結婚)位と思っていたが総合商社時代のあの事件で同世代の女性不審になりお見合いも数度したが断ったとなると深刻である。コンテナハウスも元は農園の事務所兼倉庫だったが事業拡大で新たに別の場所に設営し空家になったので健人が住むと言い出したのだ……最も妻は逮捕濃厚、元次男のカナメは今の所健康で後はこの都市内での仕事を見つけるのが当面の問題だったが……。
「確かカナメは簿記の資格持っていたな」
「高校の時に暇潰しに取って、まあ東京出てからは店の経理もしていた事もあるけど……」
父親はシメたと言う顔になり言う。
「農園の経理出来るか?」
「無理よ」
「大丈夫だ、一人で任せる訳でもなく前任者がちゃんと教える、無論変性症の事は理解している。」
「そうなんだ」
カナメは何処かホッとした表情になる。
「広海は何がしたい?」
「日比谷道場に通いたい、空手の」
「そうか……ちゃんとしたいのだな」
広海はまだ少年だった頃、即ち芸能活動の合間を縫う形で空手を嗜んでいる。母親は肉体作りや個性を引き出す手段として認めていた節もある。
「今は無理だけど……その」
「こんなに可愛いくなったから必要だよね」
カナメは妹になった広海を見る。少なくとも護身術の一つとしては身に付けて自分の様に人間関係が偏り過ぎた学生時代……それを広海にはさせたくない。
「今もマスコミは宮島 広の引退の事で過熱気味になっているが徐々に冷めるでしょう……あんまり放送過ぎるとそれなりに制裁が来ますしね」
「私の時の様に」
「ええ……本当に視聴率とスポンサーの事で頭が一杯になり易い人が多いですからねぇ……今回も何人解雇されるやら」
柳川先生は遠い目をする……本当にあの業界はコジれる事が多いがその分弁護士にとってはありがたい訳だ。最も泥沼化するので妥協点を探るのは辛い……まあ法律を知らない素人を相手にしているから仕方ない。





・次なるイベント



宮島 広海の退院も無事に済み日比谷道場にて宴会が開かれていた。神田川近所に出没していた変質者も門下生で非番の現役警察官が確保するおまけも付いた……。
「御苦労であったな……まっささやかながらも宴会じゃ」
野太い声が響くと同時に各種アルコールと持ちよった肴が瞬く間に消費される。
「玲ちゃんごくろうさま……大変だったね」
「うん。広海さんがどうなるかなぁ?」
巴はふと考える……とりあえず騒動が収まってくれる事を願うしかない。
「彼女、ここの門下生になるって……前々から空手していたから」
「実力は」
「普通だと思う……アンタもバケモノの部類になっているからね、組み手の時は気を付けてね……」
「はい、難しいですね……世の中って」
「痛みを実際に知らないか忘れてしまっているからね……変性症は」
巴はスマホで有触れた憶測記事を見て言う。
「で、三日後はイベントかぁ……面倒だなぁ」
「そこら辺のアイドルよりも身元が保証されているからのぉ……」
「か、かいっちょう!」
三沢自動車株式会社現会長はカジュアルな格好して缶ビールを持ってうろついていた所に巴を見つけて声をかけたのだろう。巴も慌てて頭を下げる。
「……この様な事を二度と起こさないようにするのは政治家の仕事じゃ……それを選ぶのは国民の権利……まっシラフで言える義理じゃないのぉ」
「会長、大丈夫ですか?」
「橘さん……あっ」
衣装は昼間のコスプレ衣装そのままだったので恥ずかしくなるが彼は言う。
「大丈夫だよ、女性はどんな格好していても輝いているから……」
巴と会長はソッと離れた。
kyouske
2017年10月13日(金) 01時35分49秒 公開
■この作品の著作権はkyouskeさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ


この作品の感想をお寄せください。
感想記事の投稿は現在ありません。
お名前(必須) E-Mail(任意)
メッセージ
評価(必須)  削除用パス 


<<戻る
感想管理PASSWORD
作品編集PASSWORD 編集 削除