第二次性徴 変性症 16
・作戦本番

日比谷道場に集まった門下生でも猛者と呼ばれる面々は作戦の詳細を伝えられた。
「皆さんは料亭神田川周辺での警戒をお願いします。名目上はPTAの臨時見回りの一員になってます……不審者情報はこれです」
地元署の婦警が特徴を表したプリントを配る、声掛け事案だが生徒か保護者の過剰反応か勘違いだろう……空振りであってほしいのだが。
「なるほどね……まあ不審者に関しては神田川もおっかいなからなぁ」
「確かアラ骨解体用のチェーンソウで押し込み強盗をビビらせた流れ者の板前さんもいたわねぇ……」
玲の両親の言葉に事情を知っている地元交番勤務の警官も笑う。
「神田川に住ませるのかぁ……大丈夫かなぁ」
「時折、助で入る板前さんとか仲居さんが泊る部屋だからね……それに上手く植栽で隠しているし……」
玲の母親は言うとみんなが納得する。流石に実家を知り尽くしている事もあり今回の話は大女将から聞いた。
「おやじと兄には話を通している……」
玲の父親である楠瀬 将は若い頃は少々やんちゃをしており地元所轄署の古参なら誰もが知っている猛者である。高校時代には兄と共に県内でも悪質でその名を轟かせていた暴走族らと真っ向から立ち向かい幾度も死闘を演じた末に解散、その頃の総長を始めとする構成員だったらとは年賀状のやり取りであるが互いに家庭を持っている事は知っている。
「将も娘持ちの親かぁ」
「嫁に迎えるのも命がけだなぁ……」
玲はうすら笑いをする……寧ろ兄の方が五月蠅いかも。




翌朝、玲は私服で県立医大付属病院に向かう……昨晩のうちにリーヤの特製看護士服も玲の胸のサイズに合わせて仕立て直されていた。性行為をする事が前提なので胸の部分はボタンで外せるようになっている……要は胸の部分のみ露出出来る仕組みだ。紙袋に入れ背中にはスポーツ用品が出している3WAYバックを背負っている。県立医大病院の大学棟に入りそのまま研究棟に……既に楠瀬運輸らも到着している事は駐車場にて確認していた。
「おはようございます、千葉教授」
「おお、来たか……そこのパーテーションで仕切られている個所で着替えなさい」
「はい」
玲はバックをテーブルに置きパーテーションの背後に……既に他のメンツも揃っているので覗かれる心配はない。
「フリーのマスコミは例の全身大火傷高麗アイドル少年で釘付けになってますので……」
各社のスポーツ新聞社会面にも取り上げられているこの事件は数日前に高麗国民放バラエティ番組に出演していたアイドル少年が演出上大量のコーンパウダーを被った際にスポットライトの高熱で発火……全身大火傷、高麗国の国立医大も安楽死を勧める程であったが両親は諦めが付かずに日本の医療機関に助けを求めたのである……冷え切った両国の状況では到底無理に思えたがすんなり国立関東医大病院が受け入れを表明、更に米海軍がティルトローター用に試験運用中の医療ユニットが使う事になり昨晩のうちに搬送されたのである。
「関東医大の連中は宮島の一件でイメージダウンしているから貧乏くじを引いたか」
「教授……」
「まっ、専門医でなくとも彼は助からんよ」
千葉は紅茶を飲みつつも言う。遺伝子研究をしているとはいえ彼も医者である……火傷の知識は一応知っており報道により火傷のレベルが尋常ではない事を知っていた。
「教授、関東医大には火傷治療のスペシャリストが居る筈ですよ」
「道明寺君……確かに彼らは腕前が良いが主流派の連中は煙たがっているのだよ……医大の利益よりも患者の利益を優先する……今回の患者は彼らを追い出すチャンスかもな」
「そんな……」
「まっ、そうなった時には学長が喜んで迎えるよ……学長、関東医大から追い出されたからなぁ……」
玲も着替えながらも大抵の事は察しがついた……医者の世界も中々魑魅魍魎である。
「玲ちゃん、今の事は……」
女子学生が蒼褪めた顔で言うと玲は頷く。既にリーナと同じく変性症の兆候が出た少年らから精液を採取する為の少女になり済ましている。
「用意は出来ましたね」
工藤の言葉にハンとアオイ、リーナも頷き玲も頷く。
「病棟の看護士の顔を知っているのは楊さんだけです」
「任せて……第二次性徴変異症候群の病棟は一種の隔離病棟になっているから……病棟内の看護士は限られるの」
「外部からの侵入って無理なの?」
「そうでもない、専門医の診断も必要になるからねぇ……カルテのやり取りも起こるし」
「電子化されているけど、紙の方が信頼性があるからねぇ」
ハンの言う通り電子カルテの危険性は悪意な書き換えで医療ミスが死亡事故になる事である。少し前に別の病院で発覚し犯人は全員逮捕、未成年者もいた。未成年者の保護者はマスコミを通して色々と言い訳をしたが監督責任を放棄した事が明るみに出て沈黙したのである。この県立医大病院には被害こそ出なかったが変性症のデータを考えると無暗に院内ネットで済ませる訳にもいかなくなったのである。それ故に紙のカルテが減らない訳だ……。
「病棟に入るわよ」
工藤は白衣を纏っており女医を装っている、職業上潜入する事が多い彼女にとって“女医“は得意だ。今回は県立医大病院全体が協力してくれる。ハンとアオイは医学生なので白衣を着れば病院内はほぼ自由に動ける。


宮島 広海の病室に入る……既に未明のうちに衣類が入った紙袋を入れており広海は着替えていた。
「身の回りのモノは後で届けます」
「本当にコレで行くのですか……」
「今日は変性症になった子が定期健診が集中しているから……敢えてロビーを通る」
広海の格好はセーラー服、そしてローファーを履いて伊達眼鏡をかけている。今の格好なら宮島 広と分かる者はいないだろう。
「そこから検査棟に向かいCTスキャン入れ替え作業場にて楠瀬運輸のトラックに乗り込む……」
玲はニッとする。敢えてフリーのカメラマンが入り込み易い場所を通る……県立医大病院のロビーはある程度は人の出入りが自由だが人も多い……フリーのカメラマンがスプークするには難しい場所だ。だからと言って人混みを避けるルートでは読まれたら終わりになる。
「(問題はどれだけあの事件に流れているかなぁ……)」
高麗国のアイドル少年の大火傷事件は確かに日本のワイドショーや女性週刊誌、スポーツ新聞各紙も注目しているが大々的に取り上げている感も無い。日本と高麗国との冷え込みは芸能界にも影響が出ている……少し前までは高麗アイドルもよく起用されていたが男女とも数年も経たないうちに自身の不祥事や事務所トラブルでアッと言う間に消える、それでも毎年新人が出てくるが一人も残らない……信頼度を重んじる日本の芸能界にとっては性懲りもなく同じ失態を繰り返す高麗国芸能関係者に信頼度はない。しかし今回大火傷した少年アイドルは両親も自身も親日家で高麗国芸能人嫌いが多い日本の芸能界では例外的に好かれているだけに今回の事件は陰謀説も日本と高麗国でもささやか始めている……両国の外務省にとっては今回の事例は利害が一致してトントン拍子に動いた事も陰謀説が流れる要因になっているのだが、流している連中は政治を理解してない……情報が出ているのが“真実”とは限らないからだ。ロビーのTVでは例の少年アイドルが搬送された関東医大病院前でレポーターが情報を伝えていた……少なくともスポーツ新聞各社や全民放に週刊誌の記者もいる……。
「……先生っ、工藤先生っ、背後……」
工藤はここでは女医なので玲の声に反応する。明らかに付いて来ている人がいる……ロビーを通り抜け検査棟に入ると直ぐの角を曲がり広海をクリーニングに出すシーツの籠台車に押し込む。そしてリーナが通路に出るとスーツを着た女性が慌てしまい手に持っていたデジカメを落とした。
「私達に何か?」
言葉を発するが日本語ではない、彼女は蹴りあげてきたがリーナは回避して間髪いれずに彼女の延髄目掛けて蹴る。一撃で倒れアオイは彼女を引きずり、工藤は手早くボディーチェックをする。
「高麗人ね……」
ジャケットの肌蹴させるとセキュリティーポーチを見つけ、手早く開けると高麗国のパスポートと国際運転免許証を見て言う。
「彼女の事は私に任せて……リーナ証言よろしくね」
ハンは工藤の意思を汲み取り広海を籠台車から出す。工藤は直ぐに警察無線で応援を呼ぶ。
「玲、彼女の事頼むわ」
ハンとアオイは検査棟内部の先を見る……そして安全を確認してCTスキャンエリアへと向かう……立ち会いの事務員が気が付き直ぐに玲らを中に入れる。
「玲、彼女をこちらへ」
作業用ヘルメットを着用した男は直ぐにショートキャブハイルーフスリーパー装備の三沢ロードポーターの助手席のドアを開け、広海と玲を乗せた。伯父である楠瀬 仁は二人がハイルーフスリーパーに隠れた事を確認した。
「さて……そちらの方々の用件は……手短にお願いな」
仁の目付きに事務員も後ずさりするが正面に居る如何にも悪と分かる格好をした男達は詰め寄る。日本語では無い言語で言うが悪意はあるし意味は察している。大男は襲いかかるが仁は言う。
「日本語わからねぇかぁ……ああ高麗人か?」
その言葉と同時に魁の右こぶしは先頭に居た大男の肝臓辺りがある腹部にめり込んだ。
「社長!」
「こいつらは不審者だ!積荷を守れ!遠慮無しに暴れろ!どーせこいつらは研修医の教材になるからなぁ!」
騒ぎを察した他の社員らが集まり乱闘になる。不審者の一人が工具を持ち仁に近寄るも一人の社員が膝蹴りで腹を強打する。社員も若い頃はチョイ悪や族をやっていた過去を持つ人が多いので喧嘩となれば手慣れたもんである。


数分後、不審者の男らは警察官が同行して治療室へ運ばれた。何れも命に別条無しで入院も必要も無い……警察病院の移動もありえるだろう。


kyouske
2017年10月02日(月) 00時48分43秒 公開
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