第二次性徴変性症15
・美を追求する女の子達

玲達は医大の学食にてランチをしていた。学生向きとあってお値段の割には量も味もバランスが良いしバリエーションも豊富……学食だが一般人にも開放されてはいる。
「美味しい」
「医大だしアレルギー表示やカロリー表示もしているからね……穴場なのよ」
「それでこのお値段……医学生なら更に学割が利くけどね」
その為かここの医大学生証はICカード内臓になっており購買や学食の会計も出来るし出席の有無も済ますと言う。
「何処の道場?」
「日比谷空手道場」
ハンはニッとする。
「あそこの道場かぁ……確かに門下生の中には警察や軍関係者もいるしなぁ……納得したわ」
「知っているんですか?」
「知ってるも何も、アタイが所属している総合格闘技のジムのオーナーは時折顔出しているから……それにアンタ昨年の大会の時に凄く注目集めていただろ?」
「はい」
「ったく、こんな美少女になってしまって……」
ハンの残念そうな表情を見て道明寺はため息をつく。
「楠瀬さん、彼女ね男の子もイケる口なのよ」
「……多いんですか?」
「多感だしね……男性の気持ちが残る事もあるからねぇ」
ハンは呆れた表情で食後のコーヒーを飲む。
「ちゃんと男性と恋愛したけど違和感を持ったり相手が嫌がったりしたらねぇ……今は同じ境遇の彼女と恋愛しているわよ……両輪も諦めているけど」
アオイはハンのこれまでの苦難を知っているのかフォローをする。
「ハンさんって外国で生まれたのですか?」
「そうね……アメリカニューヨーク州に住んでいたから……あっちも変性症に対する考え方が其々で面倒くさいからねぇ、教育機関でも我が強くってね……通っていた学校が拒否されたから日本で仕事している父方の親類に預けられた」
「それって酷くないですか?」
「裁判中に別件で乱射事件が起きたのよ……でその乱射した犯人は子供が変性症起こして通学
拒否された父親でマスコミに全ての事を公表して最後は自爆……」
「あの事件の……日本でも報道されたからねぇ」
道明寺の言葉通り、この事件は全世界に報道されアメリカにおける変性症の差別が生んだ最大の惨事として記録され日本でも教育関係者に大きな衝撃を与えた。
「で、変性症になってしまった子供達を受け入れ拒否を撤回するしかなかったのよ。全米の学校はね……アタイはもう日本の学校に慣れてしまったから戻る気もなかったけどね」
「私との出会いはその頃だったかな……中学生にしては派手な子で当初は親友でもなかったけど、同じ変性症だと聞いてね……」
「さびしくないのですか?」
「その頃はもう両親と住んでいたのよ……」
ハンはぶっきらぼうに言う。彼女の両親は共に米国出身であるが複雑な社会が産み出す軋轢に嫌気が漂い、ここにきて子供の通学拒否で完全に移住を決意……幸いにして兼ねてから懇意にしている日本の取引先に転職した。
「大学もこっちの方が安全だしね」
「アオイさんが居るから離れたくないだけと……以前惚気てましたよね?」
玲は背後を振り向くと橘 巴が居た。ライダースーツを着用しているが上の部分を脱いでTシャツのみになっている。
「今日はこれない筈じゃ……」
ハンの目付きに気にせずに巴が言う。
「レースマシンのテストだったけどねぇ、社員ライダーが盛大にコケて骨折……マシンは宙を舞い走行不能、私はその社員の出張セットをここに持って来ただけ」
「それは大変ねぇ」
「他の社員は事故処理やら手一杯よ」
巴はため息をついてB定食が載ったお盆をテーブルの上に置く。
「巴さんもここに入院していたんですか?」
「そうよ……私の場合は検査でシロ判定だったからねぇ……もう大騒ぎよ」
巴も唐突に女性になる事は戸惑ったが変性症の事は知っていた……何よりも自分が止まっていたら家族まで迷惑がかかる……なすがままになるしかなかった。
「……結局は中学校も空手道場も受け入れてくれたし、三沢自工のレース部門もレースが出来るように動いてくれたけどね」
「でも、高校転校したよね……名門なのに」
「バイクの免許位で直ぐ暴走族やら関係あると決めつける先生でしたから……あの後父親がキレて兄が制止した頃には転がっていましたから」
玲はその光景を想像しただけで苦笑するしかなかった。
「警察沙汰には?」
「なりませんよ……文句があるのなら“法廷で決めてもらうか”って言ったら黙りました。転校に必要な書類もすぐに揃って……」
道明寺は頭を抱える……変性症の子が通うかもしれないのだ。
「まあ、いいわ……楠瀬さんも協力してもらえるかしら?」
「はい?」


・脱出作戦


昼食後、小学生と中学生組は其々の用事もあり県立医大を後にする。飛鳥はお嬢様らしく如何にも爺やと言う感じの初老の男性がお出迎えに来ており、エントランスにて黒塗りではないがフォルムから三沢自工の国産車と分かる。
「……」
「飛鳥の所は本当に名門だからなぁ……玲固まっている」
「玲さん?」
「……本当に絵に描いた様なお嬢様っているんだなぁと」
「私の家柄なんて大したことは無いですよ……それに東京の方は疲れますから」
「お嬢様……そろそろ」
「ええ、失礼します」
爺やと言う感じの男は一礼して飛鳥が乗るとドアを閉めサッと運転席に回り、スッと走り去っていく。
「まあ、彼女の所は兄がいるから当主の問題はない……彼は腹違いなんだよ」
「!」
「面倒があり過ぎるから……」
ハンはヤレヤレと思いつつも玲を見る。

佐伯家のルーツは意外と浅く今の形になったのは初代当主でWWⅠの時に海運会社を興して成功、その後を継いだ二代目はこの地にある港を拠点にして鉄道を敷設し小規模ながらも炭鉱や鉱山を手掛けた……WWⅡ後の混乱期はGHQ相手に商売をしつつも基盤の回復に努め、三代目は高度成長期は三沢自工の工場を誘致に成功した立役者、しかし四代目は企業経営も然る事ながら女遊びが酷く、経済界では親代わりの三沢自工会長もため息が出る程であった……が、これには訳がある。戦略結婚が裏目に出た……妻の実家が落ち目の名門であり彼女は実家を立て直すのに躍起、お世継ぎが出来なかったのである。しかもバブル経済崩壊も重なり彼女は心労で違法薬物に手を出して死亡……そして四代目は念願かなって一人の女性との間に子を設けるが認知される事もなかった。五代目は四代目の従兄が継ぎ男児を設ける……それが飛鳥である。しかし彼は変性症により女性化してしまい佐伯一族は四代目の遺児である佐伯 隆を認知して加えた。
「……本人は何れは女当主も認めて飛鳥に継がせたいけど……周囲の関係者が反対している訳」
道明寺は玲に説明したのは巻き込まれる危険性があるからだ。追い落とすなら色気もやりかねない……未成年ならなおさら、世間にも衝撃がデカイ訳だ。
「だから飛鳥も距離をとりがちなのよ……さて、今はこっちの問題が早急になるけどね」
道明寺は言う。
「玲ちゃん、人助けしてみない?」
「はい?」
「ここじゃ話が出来ないから移動しましょ」
道明寺はエントランスから病院区画を抜けて大学校舎を経て研究棟に……病理の施設も兼ねている事もあって警備員も屈強な若手が目立つ。
「えっと、そちらのお嬢さんは初めて見る子だね?」
「ええ……女性になったばかりだから」
詰所に居た警備員も道明寺の役職を心得ているのか納得した表情になる。
「えっと警備員ですよね?銃まで携帯しているのですか?」
「彼らはPMC系警備会社……極端に言えば紛争地での仕事がメインなのよ……ここは県立大学だけど変性症の指定医療機関だからね。サンプルも財産なのよ」
アオイの言葉に玲は納得する、銃と言ってもSMGと呼ばれるカテゴリーでハンドガンよりも強力なモノだ。対テロ名目上で備えているが本当は産業スパイ対策だ。


「道明寺君か……ハンにアオイに巴も……ん?そちらの子は?」
研究室に入ると如何にもデキるシブいイケメンと言う感触の男が書類から眼を離して道明寺を見た。
「楠瀬 玲です、そのこの前変性症で」
「教授、例の子ですよ……楊博士が眼の色変えて解析している、遺伝子提供者ですよ」
「……なるほどこいつは見事な釣鐘型Iカップだ。これなら研究はするわな。道明寺君、大丈夫かね?」
「空手の有段者です。この前は小学生連れ去りを未遂で防いだ事もあります。それに神田川の大女将の孫です」
「楠瀬君と言ってもよろしいかな?私は千葉 伸太郎と言う者でね……変性症の研究者、とはいっても実際は病理で顕微鏡覗くのが日課だ」
「それで人助けと言うのは?」
「宮島 広をここから連れ出す事だ」
「はい?」
「今は宮島 広海ね……変性症になったのよ」
研究室に入るリーネは呆れた表情になる……特注の看護士衣装を着ている。玲は一応彼がアイドルである事は知ってはいる。
「……既に発症して女性にね、問題は本人に告知しなかったから十分なカウンセリングが出来なかった事や母親の逮捕、芸能界引退……そして宮島さんの女性になった姿を撮影したがっている連中がいるの」
「スプークすればその写真は高い価格で買い取り出来るからな……ファンの子まで眼の色を変えている状況だ」
「分かりました、やりましょう……」
「写真撮影した子は顔面でもぶん殴ってもいいわよ……正義はこっちにあるんだから」
意外と喧嘩腰である。ハンですら呆れるほど道明寺は怒ると何を言い出すか分からないのだ。
「変性症の子はこの研究棟の隣にある病棟の一角に収容される」
「つまりここを経由すれば……でも病院の外は?」
「当然、出入りする車両は全て見るだろうな……タイミングよくCTスキャナーの更新作業がある」
「?」
全員頭に?マークが浮かぶが玲はハッとする。
「そのCTスキャナーを運ぶ業者は」
「楠瀬運輸……つまり玲の祖父と伯父、兄がいる会社よ……玲」
「考えましたね千葉教授……」
「助手席じゃ見えるんじゃ……あっ!」
巴はモトクロスのライダーをしているので暫くして納得しスマホを操作する。
「実はトラックのキャブって言うのは色々とあってね……仮眠スペースが欲しいし積載量を増やしたいって言うお客の声もあるの……」
「ショートキャブでも仮眠スペースを設けたい……ハイルーフスリーパーね。モトクロスバイクレースで使うタイヤを運んでいるトラックがそれなのよ」
巴のスマホにはタイヤメーカーのロゴとコンポーネンツカラーに塗装された大型トラックが止まっており荷台側面が大きく開きモトクロスバイク用タイヤとホイール、そして各種機材が登載されている。しかしキャブはドアのスペースしかないが天井が荷台と同じ高さなのだ。
「運転席の上は窓が無い、ここがベットなのよ……冷蔵庫も小さいけどあるしオーディオもある」
「確か楠瀬運輸にもある……」
千葉教授はニッとして抹茶ラテを飲む。
「流石に父親の実家家業は少しは知っているかぁ……退院後の彼女を匿うのは母親の実家」
「神田川……誰が考えたのですか?」
「全てが終われば分かるよ、さてと……逢って見るかい?美少女に」




「きつい」
「玲……私よりも胸育っているもん」
玲はリーナ同様に特注の看護服を着ているが胸の辺りはラインが強調されいる。身長も相まって男なら前屈み必死、二人はその病室へと入っていく。成ベットの上で座っている飛び抜けた美少女が気が付く。
「……楊さん」
「どう?体調は?」
「今のところは……えっと隣に居る子は?」
「楠瀬 玲、あなたよりも先に女の子になった子……明日、直衛担当の一人になるから」
「えっと小学生?」
「……宮島さん、中学生です」
広海は驚く、この小学生並の身長でこの胸のサイズは芸能界でも中々お目にかかれない。
「宮島さん?」
「思わず、見とれたよ」
その笑顔に玲もリーナもホッとする。ただ広海も可也の美少女なのだが……今は憂いの方が強く直ぐに表情が曇る。
「迷惑かけたと思ってます」
「……変性症は自覚症状が無いし、体調次第じゃ前兆が出ない場合もあるわ……それを隠した大人達が悪いのよ」
「楊さん」
「リーナで構いません。まずこの病院から抜け出す事から始めましょう。住居は料亭神田川……」
「旅館ではなく?」
「時折、助(=臨時に入る料理人の事)や住み込みの弟子を住ませるからね……食事面は保証するわよ」
「……そして僕の母親の実家でもあるんだ」
「そうなんだ」
「両親は……」
「離婚する……報道の通りだよ、父方の祖父が有名な俳優で祖母は名門貴族、伯父は実業家……それ故に上流階級ぽくって、母親も売れないアイドルだったからね……反対された、結局孕ませたから認めたけどいびりが酷かった」
「……」
「長男である兄が産れても次男も産れても三男の僕が産れても……貴族だった祖母には認めなかった……」
「で躍起になって子役をさせたけどアタイも兄もダメだった……」
「姉さん……その格好」
「定期健診サボっていたから強制入院」
二人は入ってきた女性が二男である事を察した。検査用のガウンを着ておりため息をつく。
「確か定期健診って義務でしたよね?」
「私が発症して翌年から……学生時代はしていたけど卒業して二年目からは……あちこち彷徨っていたし……住民票も手続きしてないときもあってねぇ」
「よくこれまで無事でしたね」
「……産婦人科だけは世話になってないから」
広海はその意味を察したのか肩を落とす……この人は男性の時から管理から離れると何をしでかすか分からない……。
「まっ、昼夜逆転症もあるからね……彼女は」
「霞山先生!」
「そーだよ、ドクターホームズのミスワトソンだよ~~♪」
玲の声に茶目っ気に言う彼女は言う。因みにドクターホームズとはNHKが放送している医療診断推理バラエティで回答者は現役インターン、出題者は何れも医学界では名が知れた名医ら、実際に遭遇した症例を元にした再現ドラマの出来は教材にもなるほどだ。霞山先生はここでは助手であるミスワトソンとなっている。
「とりあえず今のところは問題出て無いけどカナメさんが幸せに暮らせるようにするからねぇ~~~でリーナ君、この魔乳ロリっこは?」
「楠瀬 玲です。私の幼馴染で」
「博士が彼女の遺伝子解析に夢中になる訳ねぇ……うん、おねーさんも興味出てきた……」
「身体に?」
「精神……この先何かあったら連絡お願いね♪」
玲は苦笑するが医者と言う業の深さを感じた。


制服に着替え帰宅する玲、リーナは自分の症例治療の為に時間を要する。バスで帰宅する事になる。市バスICカードには五千円程チャージしているので自宅に最寄りのバス停から県立医大病院までは十分な額だ。迷惑が掛らないように後乗りのロングシートに座る……こうした方が痴漢に遭遇しないし冤罪が起きない。
「(それでも視線を感じる)」
男性も女性も玲の胸を見て反応する……中には自分の胸を見比べてため息をつく女性も……玲も慣れたとは言え自分の胸が良い意味も悪い意味も持つ事は理解している。駅前に近い事もあり学生も多い。
「ねぇ、彼女?遊ばない?」
目の前に如何にもチャらい男数人が寄ってくる。
「予定がありますので」
「良い事しようよ、俺らと」
強引に手を取られそうになった瞬間、その男の右頬に拳がめり込んでいた。
「お客様、迷惑行為は遠慮してくさいね」
角刈短髪にグラサンをした男はニコッとする。
「テメぇ!」
グラサンをした背広の男は表情を引き締め、残ったチャラい男数人の蹴りと拳を回避し一撃で数人の動きを止め、そのまま入口から延びた男を放り出す。そして玲と眼を合わすと言う。
「あのぉ……」
「ははっ、おじさん刑事なんだよ……日比谷の大師範に少し遅れるって言っておいてくれ。楠瀬の御嬢さん」
「えっ……」
玲は唖然とすると傍にいた女性は手帳を出す。金色に輝く桜の代紋の上に制服姿女性の写真が入れられている。きりっとした表情が奇麗な女性でスーツを着ている。
「県警広域捜査機動隊の工藤です、大丈夫ですか?」
「はい」
「運転手さん、バスを発車させてもかまいませんので……」
バス運転手も運航管理者に判断を貰ってバスを発進させた。
「……普通柔道使うのに」
「彼の場合“バカには拳の方が安全だ”と言う事です。素人に受け身できませんから」
……そーいえば高士の祖父も同じ事を言っていたなぁ。出来る武人とは相手を如何に膝を突かせて倒せるかって。
「それに逮捕術の多くは合気道です……ただ、コワモテは空手を使いますが」
「……工藤さん、それで目的は?」



三十分後、日比谷道場に工藤刑事は正座をしていた。無論日比谷道場の門下生も宮島 広海を県立医大病院からの退院作戦に参加である。
「……警視庁も非公式ですが彼女の護衛をします」
「どういう事?」
「殺害予告です……追っかけの一部が今回の一件で暴走しまして……このままじゃ無理心中殺人まで起きかねません」
「……」
「ネット上で公言した追っかけは措置入院させる作業を始めてますが既に現地に」
「……入っている奴らも多い」
「機密事項じゃ」
「関係者による情報漏洩の疑いもあります」
確かに医療機関は扱っているモノが命に直結しているだけにストレスも大きく、更に職場での人間関係にもギスギス、しかもなんだかんだと言って報酬が抑えられる傾向がある。それ故に情報漏洩もよく起きる訳だ……。
「警察に被害届が出るのは余程の事だ……つまり情報漏洩先が」
「フリーのマスコミです」
地元署の警察官の言葉に工藤は頷く。
「マスコミを抑え込むにも露骨だと厄介になる……フリーは特にな」
佐藤は同業者としてはため息が出る程情けないと思うが彼らの心情も分かる。
「警視庁も非公式と言ったが浜田刑事を出したか……」
「?」
「スデゴロの浜……警視庁随一の空手の使いと同時に喧嘩師じゃよ……」
師範代はしみじみとした言葉と格闘家の眼をして言う。
「日比谷師範代も変わらず……」
「工藤の親父も同類だったのぉ……現場から退いたと聞いたが」
「ええ、警察学校の教官してます」
「何がともあれ役者はそろった……か」
師範代はニッとする。
kyouske
2017年07月28日(金) 00時50分20秒 公開
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