第二次性徴変性症 11
・祖母の人脈

「お母さん、着物って高いのでしょ?」
「ええ……まあ玲のは正月と冠婚葬祭用って言う事でね。気がついたら三箸鴉会の面々が話付けちゃったのよ……京でも有名な着物作家の一押しの筆頭弟子が仕上げるってなってね」
日菜子はため息を付く……安く見積もっても15万はするだろう、三箸鴉会(さんばしからすかい)とは国会議員の円城寺 徹、黒馬運輸元会長の馬通 博、大御所芸人の神山 一郎(本名)で結成された面々で何れも確かな舌と知識を持つ食通で各種料理人には知られるご意見番である。彼らと神田川 仁三郎は若い頃からの顔見知りであり数ヶ月に一回は来店、時には出張料理になる事もある。
「だから来年の年賀状は玲の晴れ着姿、これは決定事項」
「はい」
玲は返事すると祖母は言う。
「まったく、あの三人は昔から振り回すのだから……」
祖母は緑茶を飲み思うが仕方ない……三人とも未だに熱を入れているのだ、自分に……。



・変性症のリスク

変性症により女性になる……これにより困るのが男性である事を必要とする場合だ。一例を挙げるのなら力士や神官と言う事になる……そしてこれが少年アイドルならどうなるか……大抵は如何にかなるが既に売れっ子である場合は事態は想像以上に深刻である。
「……ぁ」
短いため息を出させる豊満な胸、十数年見慣れたモノが喪失し変わりに生命を産み出す出入り口が出来た……発症して数日、それを見る度に受け入れられない。少女になった自分……変性症になっていた事は知らなかった。
「よっ、宮島……美女になったなぁ」
大学病院の個室に入って来た初老の男性に少女は会釈し言葉を発する。
「神山さん……あの」
「東京じゃマスコミが押し寄せているからなぁ……こっちなら暫くは身を隠せる。まあ変性症を本人や厚生労働省に文部科学省に隠した母親と社長は間違いなく、逮捕だな……診察した医師が病院と相談して司法取引になったんだろ。大変だったぜ、サンプルは殆ど取れない状態だし……間違いなくあの病院は指定取り消しになるぜ」
神山はパイプ椅子に座り彼の私物が入った鞄と紙袋を置く……紙袋には黒馬運輸の伝票が張られたままだ。
「衣類は娘が用意してくれたよ。ブラは画像とサイズデータで揃えたからな」
「あ、ありがとうございます」
「親戚ですらマスコミが付きまとう状況じゃ仕方ないさ……」
「あの仕事は?」
「暫くは無い……持っていた番組も後進に譲って事務所は妻や息子が仕切っているから……」
この時期に仕事が一つもないと言うのは如何なものか……宮島は不安な表情になる。
「あのなぁ……お前の方が心配なんだよ、カウンセリングも十分しないままに発症したし家族は直ぐには来れない……ここの大学病院の担当医師も頭抱えているぞ。とにかく宮島……今現在は男性に戻す事はお奨め出来ない。生殖機能まで復元出来ないからだ……つまり血が繋がってない子供を育てる事になる」
「……」
「確かに……遺伝子治療での研究も進んで治験までこぎ着けたが……高麗共和国じゃ失敗し死亡や多数の副作用を持ってな、日本ではマウスによる実験が続いている」
「そんな」
「シャイニングは少年/男性専門だ……確かに移籍もあるが売れなければAV女優にされるのがオチだ」
「動いているんですね」
「ああっ……シャイニングの会長も違約金無での解約を承諾している」
少女は納得いかない表情は神山も分かっていた。
「アイドル続けるのに迷っていただろ……保護者も父親に代わるだけだ」
ドアをノックして一人の女性が入ってくる、スーツでピシッと決めており汗をふきつつ言う。
「宮島 広ってもう居ないわよ。神山のオジサン、とりあえず必要な手続きはすべて終了……性別変更でこれからは宮島 広海ってなるから……既に主治医には通達済み」
「あのこの方は?」
「弁護士の柳川 和泉です。今回の一件で手続きの代行を任されてます……宮島さん、これ」
封筒を渡し広海が開けるとマイナンバーカードや戸籍謄本の写しが入っており、更に転校に必要な書類も入っていた。
「転校……」
「これは父親の意向なのよ……完全に芸能界から遠ざけたいと思ってね、ここはオジサマの所縁の方々が多いから東京よりは気が楽よ」
「オジサマって」
「彼女はフランキー柳の娘でね……俺の事務所の顧問弁護士もしてもらっている」
フランキー柳と言えば昭和を代表する芸人で今じゃ神山と並ぶ大御所……関西を中心に今でも新喜劇やバラエティーに報道まで活躍している。
「……高校は市立共学、学力は中間って言う事ね」
「……」
「住居はこっちで用意するけど暫くはウィークリーマンション……」
「……離婚ですか?」
「えっ、そのぉ……」
「分かってますよ、僕の芸能活動を辞めさせたい父に進めたい母親……兄も姉も振り回されてますから……親権が確定するまでは同居させない」
広海は昨年弁護士主役の昼ドラにて親権争いに巻き込まれた子供を演じているので分かっていた……神山もベテラン弁護士役として出演している。
「離婚協議は始まるのは……そのまだなんだけど」
「どの道母親は親権を停止される……確か変性症の隠匿は犯罪ですよね?」
「ええ……懲役刑ね、発症時に通常の心肺蘇生すると死亡する恐れがあるから……今回、病院側の担当医は脅されていたとしても医師は解雇、病院は指定停止かな……最も脅した方は確実にムショね」
和泉はファイルを差し出して過去に起きた同様の事件を説明する。新聞記事の切り抜きが集められており広海も分かる。
「……柳川先生すまねぇな」
「大丈夫ですよ、弁護士の仕事ですから」
鞄から水筒を出して飲むと彼女は広海に言う。
「母親の弁護は私が世話になっている事務所の先生が最善を尽くすから……ただ、離婚しても親である事は変わりは……」
広海は何も言わなかった。



広海が検査の間に二人は大学病院の中庭に出ており背中合わせに置かれたベンチに其々背を向けて話す。
「やはり、難しいか」
「ええ……シャイニングの社長が主導でも母親の実刑は免れない。何よりも報道が過熱気味になっているから、弁護士協会が緊急アピール出すわね」
「そうか……俺も何かしらのコメ出した方がいいかな?」
「是非」
「後で各社に声明を出すように手筈整えるし、必要なら円城寺の方にもな」
「恐れ入ります」
「親父さんが激怒していると思うがね……高血圧で担ぎこまれない事を祈ろう」
神山の言う通り数時間後フランキー柳はこの日のレギュラー番組のワイドショーで結構な激怒したコメを吐き捨て、その後高血圧で病院に担ぎ込まれる騒ぎを起した事を後で知った。
「あの……円城寺先生まで動かさなくっても」
「……所が動いているんだよ、重大な政争になりかねんから」
神山のため息を出すと彼女は分かる気がする。
「兎に角、彼女がこれからの人生を歩めるようにするのが大人の役割だ……」
「はい……正直何処までやれるのか……」
神山も同じ心情になる。



「『人気アイドル 宮島 広 突然の休業』ねぇ……情報何処から漏れたんだろう」
道場にてリーネはTシャツと胴着のズボン姿で愛用のスマホを操作して言う。日比谷は暑さに項垂れつつ尋ねて胴着の上着を脱ぐ。
「何だ彼を知っているのか?」
「県外から担ぎ込まれた人……大変だったわぁ、何せ自身が変性症になっている事を知ったのは大学病院に来る数時間前でサンプルも余り採取出来なかったし……しかも受診した病院が嘘の診断結果を伝えていてねぇ……多分もう発症しているから」
「……マジかよ」
「しかもそれを指示したのがどうもシャイニング事務所の社長らしくってね……」
「悲鳴モノだろそれ」
「シャイニングのアイドルは子役からスタートする……演劇各種からバックダンサーやらCMの評価や本人の礼節と言った判断基準でランク付けされる事は知っているよね?」
「有名な話だしな」
「……彼も選出されたけどそれにはステージママの裏工作もあるの」
「……工作って」
「様々ね……袖の下やHな事も含めて……宮島 広のステージママは有名なのよ……週刊誌の記事になる程に」
日比谷道場は武家屋敷とあってか植栽により風が幾分涼しくなるので道場に通う子供達も集まる事もあるが……偶然にも二人きりである。
「なあどうなるんだ?」
「本人次第だけど移籍しても成功するとは限らない……最悪成人して数年でAV女優ってなるかな?」
「……酷だな」
「だから、引退した方が賢い選択……そしてスカウトには付いていかない」
去年の夏に東京にてしつこく誘うスカウトを格闘ゲームのコンポで瞬殺した事もありスカウトは頭にヒヨコと星が回転した状態でKOさせた事もある。この時はイラつきが溜まっていたのでキレたのである。

kyouske
2017年04月03日(月) 21時34分35秒 公開
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