第二次性徴変性症10
・強いおねえさんは好きですか?

玲は斎藤先生の指示を受けて息を整え、小学生組も帯を結び直したりしている。
「巴、涼……補佐を頼む」
「「ウォス!」」
「じゃあ低学年の子は2~3人ずつ、高学年の子は一人……早い者勝ちよ」
玲は構えると数人の低学年の男子が同時に仕掛けて来たが玲は慌てる事も無く防御して突きの寸止めをする。それでも空気を切り裂く音と板床を踏みこむ音が響き何よりも玲の掛け声が鋭いのだ。それ故に子供でも打撃を受けた感が分かると言う……一礼して下がるとまた別のグループが来る。
「ほらほらっ、久しぶりって言うかおねーさんになって初めての組手だからって遠慮っ要らないわよぉ♪」
胸がしっかりと胴着のフォルムに出ているので思春期に差し掛かる年齢の男子にとって遠慮したくなる……逆に女子だと果敢に攻めて来る。だが玲の腕前は中々なモノでほんの数分で済ませる。
「うぁ、容赦ないわね」
「楽しんでいるわ」
涼も巴も自分と同じ匂いを感じていた。
「楠瀬!隙あり!」
先程の高校生男子が背後から飛び込んでくるも玲はパッと跳躍し背中を蹴る。
「イッ!」
「もう~~乱入はダメですよ~~」
「あっ!抜け駆けしやがったな!勘の奴!」
「ずるいぞっ!」
「先輩っ、相手お願いしますっ!」
玲も組手相手の小学生らが突かれて集中力が途切れている事を感じて言う、巴と涼は小学生らを遠ざけると高校生男子の一人が構える。
「しかたねぇなぁ……玲、金的してもかまんぞ」
「そりゃないっすよ!斎藤先生……」
先生の背後で高校生女子のお姉さん達はGJと言う表情をしている辺り適格と思う。板張りの床が裸足で踏み込む足から来る音を鳴らし、掛け声が響く……立て続けに数人相手する玲の技量はスバ向けている。小学生と変わらない背丈だが身体能力が高く、高校生男子でも胸を見る暇もない。
「たのしそう」
「もう涼姉もしたいの?」
巴もうずうずしていた……斎藤先生は言う。
「玲、下がれ……涼、巴入れ!」
「ッ!ヘルハウンド……」
「斎藤センセー、ガチ塩対応っ!」
そう、橘 涼と橘 巴の強さは全国区でその戦い方は地獄にて罪人の魂を狩る犬その物と言う程だ……つまり容赦しない訳で……まあそれはバイクレースにも言える事であるが。そして数分後には高校生男子が床の上に大の字になる。
「まあ、致命傷にならないだけでも御の字か」
斎藤先生はため息をつくがこの姉妹で勝てるとは思いもしない。
「おい、師範代と橘が組手するぞ!」
道場のほぼ中央で日比谷師範代と総一郎が構えを取り見つめている。他の門下生は正座しており玲も息を整え正座して見る中……二人は微動に動き、時折牽制の突きや蹴り、若しくはそのフェントまで出る。
「(互いに分かるんだ……大きく動けば負ける)」
「どう見る?」
横に居た高士に玲は言う。
「師範代は分かるんだよ、橘さんが相当な腕前って言う事……」
あの時聞こえた鈍い打撃音は経験者でも受け損なうと相当なダメージを負う事になる。そして……二人の眼は限りなく獲物を仕留めようとする武人になっている事に気がついた。
「ハァっ!」
「エィャアアッ!」
二人の掛け声と同時に空気を叩きだす音が響いた。師範代の左の拳は総一郎の腹に……総一郎の右足は師範代の右腕に当たっていた。右腕でガードしなかったら師範代の頭部にヒットしていた位置に。
「まいりました」
「……ったく、祖父や息子と似ておるのぉ」
師範代も久しぶりに骨がある相手なのか満足そうに言う。
「朝練習はこれで終了じゃな」


・忘れていた約束

朝練が終わり其々帰宅する……大人組の中には仕事と言う方も居るがそこら辺は調整しているのだろう。
「あ、あのぉ……橘さんは今日は……」
「仕事があるけど工場には昼過ぎから出ないと人事に怒られるからね」
そう、この近郊には三沢自動車の本社工場に研究開発施設がある……昭和の高度経済成長期に商業車やトラック/バスで頭角を現し、80年代以降は乗用車部門にも進出するもトヨタや日産と言ったメーカーの馬力戦争に引き摺り回されていたがWRCを中心にラリーに参加するようになると徐々に知られるようになり、2000年代以降はラリーストの定番車輛になった三沢 サザンRⅢを出しているしバイクレースもワークス参戦を続けている。ユニークなのは社員の一部は国内A級ライセンスに国内B級ライセンス取得者が多く、中には国際C級ライセンス取得している猛者もいて、総一郎も国際B級ライセンス持ちの技術者である。
「……ほぉ~~ここに移籍ですか、橘さんは」
「佐藤さん……来ていたのですか?」
「いやはや……日比谷師範代とまともに組手出来るとは恐れ入りましたな」
無精ひげが目立ち電子煙草を銜え背広を抱えた男がいた。
「で、そちらのお穣さんは……えっと」
「楠瀬 玲です……昨年の大会で取材受けた筈ですが」
「……はい?」
電子煙草を落とす程、佐藤は驚いた。確か昨年は凛々しい少年だった筈だ。
「第二次性徴変性症になってしまって……」
「……それでこの前の大会をパスしたのか」
「はい……そのぉ」
「加籐の奴が残念がっているなぁ……確か連絡先交換しただろ」
玲はここん所のドタバタですっかり忘れていた。加藤とは昨年の大会で決勝で激突した相手でその試合は今でも語れる程有名になり中学生になっても空手を続けるきっかけを作り。その時アドレスを交換して時折メールでやりとりをしていた。今年の大会は丁度入院期間と重なっていたのだ。
「中学生部門じゃ優勝かっさらっていたがつまらなそうな顔をしていたからなぁ……」
「どうし、しょう」
「加藤って、加藤 裕次郎か?」
「そう……」
「連絡すればいいじゃないか……別に困らないのだろ」
玲は直ぐにスマホで彼の番号にかけてみる。
『はい、加藤ですが……楠瀬?』
「久しぶりっ……ごめんっ、この前の大会キャンセルして!」
『ああ、怪我したのか……』
「性別が変わった……だから公式戦で……」
その時スマホが落ちる音がして振り向くと唖然とした表情を浮かべた少年が視界に入って来た。
「加藤……」
「なんなんだぁああ!この爆乳ロリはぁああああ!」
その言葉と同時にリーヤに背後から飛び蹴りを喰らう事なった。



「はぁ……」
「来るなら来るって連絡位入れなさいよ」
「あいつが大会に出ないから心配して……で驚かせようとして……」
加藤は鼻の穴にテッシュを詰め寝ていた、振り向いた瞬間にリーヤの蹴りが顔面に命中して鼻血を出したのだ。
「変性症はデリケートな対応を求めれるからな……でちゃんと許可もらっているのか?」
「親にはメール送信しているから」
佐藤はため息を付き言う。
「……加籐の倅か、どーせ宿も取らずにきたのだろ……泊まっていくか?」
「是非」
「師範代」
「先程父親から確認のメールが来てのぉ……2~3日位預かってもらえないかって……母親が煩くって……家出したのだろ?」
「はい……勉強に集中させたいって……でも大学出ても大企業に入れなかった兄を見ていると……嫌になって」
「……まっ仕方ないさ、大企業は嘘の実績を信じ込んでそいつを社員として選んでしまう。変に解雇しても影響が大きいからなぁ……お兄さんは確か」
「結局中堅の会社に入って……母親は嫌がってましたけど“大企業も倒産する時代だ”って言って……終いには母親が知り合いの会社に入れようとしたら“縁故入社が一番厄介なんだよ!!”って……」
佐藤は一息ついて言う。
「それも一理あるな……親が勝手に縁故入社の段取りしてそれを知って必死になって仕事を覚えて努力しても周囲に認められずにノイローゼになって……終いには初めて無断欠勤を起して、上司と俺が探しに行ったら何時も使う通勤で使う路線の終点駅で首吊……死んだ奴を知っているよ……俺の友人、会社は必死に責任逃れに徹したがね……そのうち二人目が出て未遂で済んだけど、問題視されて最終的には”職場環境の精神的圧迫による精神障害発症の自殺”が認められて和解に転じたよ」
「佐藤さんは今の仕事は?」
「満足しているよ、好きな格闘技で飯が食えているのだからな……」
道場横にある縁側にて胡坐をかく形で座り込んだ佐藤は言う。
「反抗期だからおもっきり親と口喧嘩してもいいじゃないか……母親が分かってないのだよ。お兄さんの言う通り今は大企業も潰れる時代だ。俺が若い頃はそれが起きて企業も人事採用が厳しくなってな……俺は幸いにして好きな事を仕事に出来たよ……だがあいつはそれが出来なかった、遺書には“全ての責任は自分にあり、退職金を初めとする金銭は一切要りません、ご迷惑おかけしました”と走り書きしていたな……」
これは当時大々的に報道されたので今でもそれを起さない様に神経を尖らしている。その企業は程なくして他社との合併に追い込まれた。
「さてと……朝から暗い話になったが本題に移ろう……楠瀬さんは空手を続ける訳か」
「はい」
「まっ、妥当だろう……秋の大会にはエントリーすると言う事かな?」
「はい……主治医の判断次第ですが」
「?」
「ああ変性症は遺伝子が変異しているから遺伝子性疾患が出て来る事もある……そうなる事は極稀だけどね。裕次郎の所は出てないの?」
「今の所は……」
すると玲の腹の虫が鳴る。
「朝ご飯まだじゃろ……」
玲は一礼して自宅に戻る。
「……大した子ですね、あんな胸でよく」
「多分まだ恐ろしさを知らないだけよ、だから早い所男に抱かれたほうがいいけどねぇ」
その瞬間高士と裕次郎が固まった。リーネの言葉は分かる……ここまでの巨乳だと性犯罪で最悪の事態にもなりかねないし巨乳故に精神に変化が出る。
「私の場合は異常性欲が出ていたからやむを得ずにね……」
「武士が切腹の際に背後にて刀を持った武士が介錯する必要か分かるかのぉ?」
「?」
高士はキョトンして祖父の問い掛けに答えられないでいると佐藤は言う。
「腹に突き刺せば壮絶な痛みが生じ、助からない上に出血多量まで時間がかかる……つまり首を切断して死を早めた」
「そうじゃな……つまり女にとっては純潔を捧げるのはそれ位の覚悟っていうことじゃな……」
高士も裕次郎も漸く理解した。
「とは言え、玲が決める事じゃな……」
師範代はため息を付きつつ言う。


「はぁ~~~最高ぉ」
綾音従姉は小振りの土鍋にあったお粥を全部平らげて言う……先程二日酔いでゾンビ状態だったのが嘘の様な回復ぶりである。流石に名門料亭の一人娘とあって彼女のお粥は本式である。
「ごめんねぇ、お父さんがあんなに呑ませて……」
「いえいえっ!滅多に呑めないですから……それにあんな肴まで……それなら二日酔いも悔いはなし……」
茅野従姉はため息を付きつつ言う。
「アルコール抜けるの?夕方には走るよね?」
「……」
「アルコール残っていたらどうなるか……色々と面倒なのよ」
茅野従姉は綾音従姉に迫り言う。誰がどう見ても殺気に満ち溢れた眼をしている……そりゃあ路上に出れば凶器にもなりうるのが大型トラックだ。
「直ぐにスーパー銭湯に行ってサウナ入るよ」
「……はい」
「宇佐美もいくぅ!」
「ダメ」
「宇佐美ちゃん、夏休みの宿題やらないと……泣くよ」
玲はフォローに入る……茅野従姉が怒らすと怖い事は知っている。
「玲、宇佐美の面倒頼む……これも家業の為」
「はい……でも」
綾音従姉はシャウトする。
「それならプールがいいぉぉおお!」
「ビール飲んだら元の子もないでしょぉおおお!」
母は微笑みだが玲は薄ら笑いをしていた。




玲は自分の分もやりつつも宇佐美従妹の様子を見ていた。道場に行く予定であったが宇佐美の面倒をみるので止めた。彼女の性格から日比谷道場に通う同年代とは気が合わないだろう……少しばかり困ってきた。
「玲、クラスメートらが来ているわよ」
母親の声と同時に美濃島らが部屋に入る。彼女達は小学校からの顔見知りだ。
「美濃島さんに瀬島さん」
夏に似合う空色のワンピースを着た美濃島に瀬島はTシャツにキャロットスカートだ。
「うん、よかった……昨日は死にそうな顔していたから……あれ?」
「従妹の宇佐美、父の兄の娘さんだよ」
「はじめまして……」
「可愛い……四年生かな?」
「はい」
「昨日さ、母方の祖父が来て一番上の従姉と呑んでねぇ……で今はサウナがあるスーパー銭湯でアルコール抜いている、トラックドライバーだから」
「そっかぁ……で、宇佐美ちゃんがお留守番なんだ、普通なら付いていくのに?」
「以前社員旅行先にてサウナで熱中症になって……その時も綾音姉さんがアルコール抜いていて……」
少しバツが悪い表情になる。その時は救急車にドクターカーも来て大騒ぎになったと言う。
「でお留守番なんだ」
「でも、こうしないと夏休み最終日に泣くからね……」
それは玲も瀬川も美濃島も同じなので揃って宿題をする事になる。



・祖母襲来

黙々と宿題を進めていくうちに昼飯の時間になる。
「二人ともお昼食べて行きなさい……」
「「いいんですか?」」
「ええ」
母親がにこやかにしているとチャイムが鳴り、母親が玄関へと行く。
「お母さん……店は?」
普段から和装でいる事が多いのが名門料亭の大女将であり、洋装で外に出歩く事は然程無い感じだ。
「順子さんに任せてますから……それより玲は?」
玲が二階から降りて来ると険しい表情の母親から一転して優しい祖母になる。
「あ~き~らちゃぁん!う~~ん可愛いっ!」
「お祖母さん、その……」
「この分だと着付けも教えておかないと……腕が鳴るわぁ」
「お母さん、玲の胸の大きさで着付けって」
「大丈夫よ、経験済みだから。あっこれこの前夜食に持たせた時のタッパーね」
「もう、帰省するのに……で今日は何を持ってきたの」
「西瓜っす……すみません、両親には止めているんですが……」
運転手の錦織 健介は恐縮して言う。実家が西瓜農家で息子が名門料亭に板前見習いとして就職した時からお歳暮と言う形で届くのだが最大サイズが二つ入りの箱が五個も届く訳だ。ダンボールには黒馬運輸の各種注意シールに衝撃緩衝用資材を用いた補強梱包がされている。
「これだけの西瓜をそのまま喰うのは飽きるわよ。日菜子は昼の用意ね……そうね豚肩ロースの塊はあるよね?」
「生姜焼きね、玲も手伝いなさい」
「は~い」
祖母は居間に座り宇佐美らと会話を始めていた。錦織は乗用車を近くの駐車場へと移動している。
「日菜子も良かったわね、娘が出来て……欲しかったでしょ」
「う~ん」
母親は豚肩ロースの塊を切り分けて行く……無論使うのは牛刀と呼ばれる専用の包丁でデカイ。何せ板前をしている父から嫁入り道具として持たされた包丁セットは料理人が使うモノばかりで一般家庭には不向きと思われるが日菜子は料理好きである……料理だけは何処に嫁がせてもぐうの音を出せない程仕込まれているのだ。
「玲にも教えておかないとねぇ……」
とか言うが玲も既に魚は三枚に下ろせるし、米も炊けるしパスタも茹でられる……これ位は神田川家の血を持つ者なら出来て当然である。
「玲、ドライカレーの具も仕込んでおきなさい」
「は~い」
材料は一般的なカレーで使う野菜(ただしジャガイモは使わない)に冷蔵庫にあった残り物野菜、薬味に合挽き肉……キモになるカレー粉は実家の出入りしている食材仕入れ業者からのサンプル品やらお弟子さんや同業者からの差し入れやらのブレンド物で継ぎ足しているカオスな一品、これが普通の家庭に有る事事態異常なのだが……玲は気にせずに材料を全て微塵切りし終えると中華鍋を取りだす。油を入れガスコンロの火を付ける……そして材料を入れて炒めていく。
「お母さんも西瓜ソーダ作る気でしょ、玲、道具を持って行って」
「「西瓜ソーダ?」」
美濃島と瀬島が訪ねると祖母はたすき掛けをしてから手慣れた様に西瓜を包丁で切り分ける……そして玲が笊とボウルを持って来ると宇佐美ちゃんがソーダとレモンを持ってきた。
「切り分けた身を笊に入れて手でつぶすのよ……そりゃあミキサーですればいいかもしれないけど直ぐ安全装置が働いて裏ぶた外してリセット押さないとね……果汁は色変わり防止の為にレモンの絞り汁、これは西瓜に限らずどの果物の絞り汁にも有効よ」
最後はすりこぎでしっかり絞り取り陶器の器に移すとレモンを斬り果汁を絞り取る。
「大人になればこれにジンを加えると良いわよ」
「「勉強になります」」
「男を振り向かせるのなら胃袋を掴め……男を見る目も重要よ」
玲はふと思う、橘さんの事をもっと知りたい……そう思いつつもドライカレーを調理を進めていた。


お昼は母親である日菜子の豚肉生姜焼きにご飯と中華風出汁わかめスープ……その味はもはや商売が出来るのだが……本人は主婦業に徹する方が楽らしい。
「美味しいっ!」
「この味、外食って感じですよね」
「ウチはお酒が多いから強火で焼くと炎が上がるのよ……それにこれだと冷蔵庫で4~5日は持つから仕込んでおけば大丈夫なのよ」
「玲、どんぶり飯ってそこは変わってないのよね」
「美味いから……」
アレンジとして丼飯にしているが刻みキャベツに生姜焼きのタレをたっぷりかける……お弁当にも応用できるので玲はこの食べ方が好きなのだ。
kyouske
2017年03月25日(土) 01時38分44秒 公開
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