第二次性徴変性症 9 
・風呂場で分かる女子力

「はぁ~~」
玲のため息と共に従姉妹二人の唾を飲み込む音が聞こえた……何せ玲の豊満の胸が湯船に浮いているのだ。よくアニメや漫画の表現で見られる定番の表現が実際に目撃する事になれば当然のことである。
「……女性って長湯する理由分かった」
「それもあるけど……何処まで育つのかなぁ」
茅野従姉は幾分羨ましい表情になるが育つ見込みが無い胸を見る。だが玲にしてみれば重たい……まるでスーパーマーケット帰りの主婦が持つ買い物袋を吊り下げている様な感覚だ。
「宇佐美も育つかなぁ?」
「大丈夫、玲従姉ちゃんの場合は異例だから」
思春期に差し掛かる妹に言い聞かせておく茅野従姉であった。
「シャンプーとかリンスは?」
「入院の時に石鹸で済ませようとしたら母親が使いなさいって……」
「髪のケアは重要よ」
これも邪魔になる。散髪したいのだが……母親が嫌がっており今朝も念入りにセットされた。
「一度美容室に行ってみなさいよ……こんなに美人なんだし」
「美人?」
「(……ダメだ、自覚してない)」
さぞかしあの少年も大変だろう。茅野も人の事は言えないが楠瀬家の人は恋愛となると少し鈍い傾向にあるらしい。


綾音従姉は結局酔いつぶれて客間で寝かせる事にして、茅野従姉と宇佐美従妹は玲の部屋に布団を持ちこんで寝る事にした。既に宇佐美従妹は寝てしまっている。
「……妹か」
「宇佐美は私の母親の妹、叔母に卵子を提供してこの世に出た子なんだ」
「!!!!」
「その人は結局、宇佐美を育てる事が出来なくなった……だから父親は引き取ることを決めたの……」
玲は驚く……こんな事は初めて聞いたからだ。
「どうして?」
「叔母は水商売をしていたらしく……色々とあってね、血縁上の父親も宇佐美を引き取れない事情を抱えていたから」
茅野従姉は寝ている妹を見て悲しい表情になる。




・取り戻す日常

玲は眼が覚める……寝ている二人を起さない様に胴着に着替える。胴着に着替えるのは洗濯物を増やさない事や兄貴もこうしていたので……何よりも自宅近所に道場があるからだ。
「おはよう……玲」
「おはよう、走って来る」
母親はスマホとスポーツドリンク入りボトルが入ったウェストポーチを投げ渡す。
「幾ら胴着姿でもこれだけ胸が出ていたら襲ってくるわよ」
「帯が黒でも?」
「ああ、襲う連中は恐ろしさを知らんからなぁ」
父親は既にランニングを終えてシャワーを終えていた。当然の事ながら日比野道場の門下生で少しは衰えも見えるがそこら辺のメタボ親父よりは健康的、それが分かるのが上半身を晒している今の状況だ、パッと髪の毛をヘヤゴムで纏め運動靴を履いて出てストレッチをすると走り出した。
「(な、なに……お父さんの上半身見ただけでドキッぅて!)」
何か違う感じを認識しつつも玲は何時ものコースを走る……何時頃から走り始めたのか覚えてない、ただ父親と一緒に走っていた事は覚えている。夏でも早朝なら気持ちが良い温度だ……だからこそ走り込むには丁度良い。入院前と同じコースを走る……目の前に秋田犬と共にランニングする女性が見えた。
「おはようございます、三島さん」
「ぁうぁ!玲君よね……おもっきり発酵しちゃったねぇ」
「はい」
三島 春香さんは結婚して近所に新居を構えた人で同じ町内会なので玲の事は知っている。秋田犬のタローは旦那の実家で飼われていた狩猟犬から産まれるも猟銃の音声に慣れずに狩猟犬には向いてなく、里子に出される事になったのだが情が移った春香が飼う事になった。旦那さんも幾多の秋田犬の飼育経験があるので番犬代わりにしているらしい……。
「また鹿とか猪とか道場に差し入れしていいかなぁ」
「是非」
旦那さんの父親がハンターをしているので害獣駆除の名目で県からお呼びがかかる事もある……二人の新居には常に実家や猟師仲間から送られてくる鹿や猪の肉の塊がストックされているのだ。それ故におすそ分けもよく受けるし何よりも春香さんはこの手の食材を使った料理には精通している。
「でも春香さんも胸凄いですよね」
「う~んでも下着や水着がどうしても限られるし……男だけは気をつけなさいよ」
「はい」
二人と一匹は何時のもコースを走る……緩やかな下り坂を過ぎて公園内の池を周回しそのまま反対側に出て小学校前を通過……そして急な坂を登っていく。タローにはリードがつけないが躾けをちゃんとしているので春香の声にもちゃんと言う事を聞く。
「おっ!三島の若奥様と玲ちゃんか……」
「「おはようございます」」
登り切った所でパトカーと数人の制服警官が居たがその一人が声をかける、彼も日比谷道場の門下生だ。
「何かあったんですか?」
「酔っ払いの保護……」
背後を見ると昨夜は上機嫌だったのかサラリーマン風が壁に持たれて寝ていた。
「知り合いじゃないよね?」
「う~~ん同じ町内でもアパートの住民まではねぇ」
春香さんも困り顔になる。
「鹿島、とりあえず署まで運んじゃおう……」
「はい……じゃあまた連絡するから」
二人は会釈して走り出す。


日比谷道場前で別れて玲はスポーツドリンクを飲みつつ道場へと行く。朝食は軽くコンビニで済ませている。
「おはようございます」
朝練をしているのが既に賭け声が聞こえる……通常の稽古に関しては門下生の都合や自主性に任せているので朝練の参加も義務ではない。
「あら、もういいの?」
高士の母親が事務所から顔を出して言う。
「はい……リーヤには止められそうですが……」
「来ているわよ、橘さん」
「本当ですか!」
直ぐに一礼しウェストポーチを外して道場の片隅に置き、正座して深くお辞儀をする。
「押!楠瀬 玲です!朝練参加します」
「玲っ!久しぶりに相手するか?」
高校生男子の一人がスッと玲の眼の前に出た瞬間にゴスっと鈍い音がした。よく見ると彼の脇腹には高校のお姉さんの美しい足が突き刺さっていた。
「ごめんねぇ、いきなり下心があるアホと組手はねぇ」
「玲ちゃんも病み上がりで昨日ハンガーノック起したって聞いていたから……」
「……可愛い妹が出来た様なもんだな」
「あっ斎藤先生」
近所の高校では空手部顧問を務めている数学教師でありちと残念な個所もあるがイケメンである。
「全く……桑原も手と足が先に出すな」
「……はい」
玲は気を取り直して基本の技をしつつも橘を見ていた。他の大人の門下生らと組手をしており寸止めをしているとは言え激しい。
「お~~やっているね」
「あらもう大丈夫なの?」
声をかけて来たのが橘 巴と橘 涼で総一郎の双子の妹だ。ただ巴は第二次性徴変性症で女性になっている事は数日前に知っている。
「確か巴の時も中一だったよね?」
「……検診して解析後に症例が出て周囲が騒がしかったなぁ、兄貴が一番動揺したのがなぁ」
誕生当初は涼が姉、巴が弟の双子の姉弟だったのが巴の変性症の発症により今現在の戸籍では姉妹表記だ。
「バイクレースしていたからエントリーキャンセルしてライダースーツやブーツの仕立て直しや発注にライセンスの変更にマシンの微調整で結局シーズンダメになったんだよねぇ……」
二人とも空手と同じく熱を入れているのがバイクレースで涼はオンロード(舗装)で巴がオフロードではそれなりに名が知れており、高校に入る頃には二輪免許も取得したのである。
「まあそこの生活指導の先生が煩くってね……バイクの免許持っているからって公道じゃあんまり乗らないって言うのに暴走族と関係持っていると決めつけてさぁ……で涼がキレた」
遂には巴と共に退学届を叩きつけて不登校状態になったがその教員は前々からの問題言動が目に余り教育委員会と学校側も配慮(=保身に走り)して転校扱いにしたのである……で、斎藤先生が務める高校が受け入れを表明、実はこの高校は工業関連の学科がある関係上早くから原付二輪や普通/大型自動二輪の通学を認めている、斎藤先生も大型二輪免許を持っている猛者でもある。
「最初からここに来ればよかったに」
「仕方ないわよ、入学前の話が違ったんだし……あのキチガイ一発殴っておけばよかったかなぁ~~」
涼の言葉には玲も薄ら笑いをした。事件当日……誘拐犯らは巴と涼が追跡している事も気がつかずにアジトに逃げ込んだ。その後警察が通報を受けて到着し犯行が使われた車輛と確認し逮捕に貢献したのである。
「この前の獲り物じゃ物足りないの?」
「そうよ」
涼は捜査員の手から逃れようとした主犯格に対して顔に一撃でK.O、この時は鼻が完全に潰れており捜査員ですら犯人に同情したのである。
「まだ巴の方がおしとやかだな」
「兄と一緒の事言いますね……」
斎藤先生が言うと涼はため息をつく……確かに巴の方が普段からおしとやかで女子力も高い。元々から兄に対して慕っていた事もある。
「玲、小学生の相手を頼む」
「押っ!」
その声に近所に住む小学生らが集まる。やはり朝から元気は良い。
「胸スゲェ!」
「掴んだらリーヤお姉さんに殺されるぞ」
うん、彼女の事だから壁ドンはするだろう。結構な躾けぷりで集団登下校の際にはどんな悪ガキでも黙らせたのだ。

kyouske
2017年03月13日(月) 23時38分21秒 公開
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