性別変更 5
・予定された診断


 夏休み前、某県立大学病院にある診察室にて唯の姿が見える。
「変異性第二次性徴症候群、即ち性転換症です」
専門医は癌告知並に重苦しく言う……海はやはりと言う表情をしていた。
「セカンドオピニオンを希望されるならこっちから紹介状を出します……」
診断が別れる程、灰色判定なんだろう……この医者も責任回避と言う手段がセカンドオピニオンかもしれない。
「はい」
唯は分かっていた様に冷静に返事した。


待合室にて海は明に話す。
「御堂川さんは空間アブダクションって知ってますよね」
「ええ、次元改造帝国ダルティアンが奴隷や家畜の原材料にする生物を空間ごと転移させる……」
「自分と唯の両親は同時多発空間アブダクションが起きた都市の出身なんです」
明はハッとする、時空因子を受けた遺伝子は変異し、それは次世代にも継承される……あの水着にも反応するのも無理はない。
「自分は平気だったので油断してました」
「……確かに時空因子を受けた遺伝子を持つ親から産まれた子は継承されますが、発症するかどうかは……」
明もその事は知っていた。統計では空間アブダクションになった都市では男児/少年が性転換する事例が幾つか報告されているが正確な数字は公表してない。
「唯君が急性性転換になった場合を考えると入院を勧めます……」
急性性転換は急激に起きて心臓が止まる事もあるが、それは極稀で大抵は仮死状態に近くなり徐々に変化していくと言う。
「両親と相談します」
海はため息を付いた。そんな中病院内が慌ただしくなる、何と近くで怪人が出たのだ。



少し離れた大学病院と契約している立体駐車場内……海の愛車にてパラレルは海が持つ携帯からこれまでのやりとりを盗聴していたのだ。
「(ーアキラと明……モシカシテー)』
考えにくいがアキラが失踪して数年経つのに類似性を含めて目撃事例が全くない……なのに明は平然としている。
「-アッー』
目の前にトカゲの遺伝子を組み込まれた怪人が出現する。間違いないダルティアン帝国の現地幹部だ。
「-緊急対応モードー』
エンジンが始動してとりあえず立体駐車場からこの怪人を引きずり出すしかない、パラレルは海の愛車を操りそのままトカゲ怪人をボンネットに載せたまま飛び出した。そして難なく着地しトカゲ怪人を地面に転がす。
「-マイマスター!』
「いい判断だな」
海はあの古びた携帯を手に取り叫ぶ。
「イグニッション!」
トカゲ怪人はその姿にハッとする……ダルティアン帝国の悪を倒した敵のエース……いや、彼は引退したはずだ。海に光のフレームが周囲に出現しそれが徐々にメタリックシルバーのバトルスーツが出現しC4と表示された追加装備らしいフロントアーマーが出現する。
「まっ、まさかっ!」
ダルティアン帝国の侵略により文明崩壊を逃れた地球ではその後発生する次元犯罪に対処するべくエクステンダーポリスと呼ばれる治安維持機構を設立……とは言え拠点も人員も数が少ないのが問題となっている。地球がある次元では辺境である事も増えない理由だが次元犯罪者が大挙して来る事は無かった、なぜならジャスパルオンC4と呼ばれるエクステンダーポリスにも所属してない謎の敵がいるからだ。
「そうさ……一つ言っておこう、今俺は非常に不機嫌だ……」
「くっ、こぉおおお!」
トカゲ男が地を這うように高速で接近するもジャスパルオンC4は跳躍して支援小型無人機パトウィングからアサルトビームライフルを受け取りマグナムモードにする。
「貴様がここにいる理由は?」
トリガーを圧すとトカゲ男の真上にビーム球体がのしかかり爆発を起す。
「パラレル、現地所轄に現場封鎖要請!」
「-通告済みデスー』
トカゲ男は脱皮して難を逃れようとした先程自分を跳ねた車輛にあのパトウィングが合体して先回りされた。
「!!!!!!」
「消滅はしないさ……」
続けて腰に装備した特殊警棒を構え、レーザーブレートを展開させる。
「閃光、ショックブレード!」
トカゲ男の断末魔がビルの谷間にこだました。




「あ~めんどうくせぇ」
エクステンダーポリスの出先機関になっている某県警本部の一室にて海は書類を書いていた。
「決まりですからねぇ、すみません……何分ガセを掴まされましてね、英雄の息子さんに迷惑をおかけして」
海とは同世代だが恭しくコーヒーを出す。テーブルの傍らには洗われたどんぶりと汁モノのお椀が重ねられていた。出前を取ったんだろう。
「トカゲ男の正体は?」
「DNAロンダリングで数日はかかりますね……」
「例の件もあるからな……どうだ?」
「私個人の見解では海さんの見立て通りです、唯君のカルテを見ましたが……幾らなんでも異常ですよ」
「万が一圧力がかかったら親父の名を出してもいい」
海はつくづく思う、少しばかり平和ボケしてないか?
「一応こっちも渡しておく、マークしているのだろ?」
「ええ……助かります」
彼はニヤリとしてデータ触媒を受け取る。
「この先面倒な事になるが」
「これも身内が被害者でも対応しても大丈夫ですよ」
だったらもう少し人員増やしてほしいわ、幾ら手当が出るとは言え“副業”が急がし過ぎると困るのだ。




・雄二動く


夏休みに入り雄二は唯と会う度に異変を感じていた。異性として魅力を感じているのだ……無論自分には同性愛では無いし、他の同性にはそれが感じない……幸いにして陸上部は所謂全国大会を目指すと言った目標を掲げないお気楽な所だ。一見すると熱意が感じられないと思われるが少し前に行き過ぎた指導の末に当時の部員が自殺未遂して今のスタイルになった……タイミング悪く全国区になったので顧問こそいるがもっぱら部員の健康管理から大会エントリーに特化している。合宿も基本的に参加するかどうかは部員の自主性を重んじている。無論雄二は賢いから参加するが……唯はどうするか。
「参加すると思うが……」
入学祝に買って貰ったPCを操作しネットに接続し通っている中学校裏掲示板にアクセスする。
「ん?」
新たなスレが立っていた……内容は“ウチの生徒に変異性第二次性徴症候群がデタ!と言う内容だった。一応生徒の電子情報は厳重に管理されている筈だがセキュリティが甘く卒業生や他校の生徒がハッキングして情報を盗む事が多い。
「おいおいっ!」
雄二は慌てて操作する……下手すると後数時間で“削除”されるからだ。
「顔写真まで出たらアウトだな」
IPを辿られて待っているのはOBで尚且つ高校卒なら刑事告訴、高校生以下なら停学が待っているだろう。唯がもし診察を受けているとしたら……この辺りなら県立医大しかない。
「さてと……こりゃあ荒れるぞ」
雄二は唾を呑みこんだ。


数時間後にはまとめサイドも出来ていた……今の所は生徒は特定されて無い、ガセだった可能性も示唆するカキコミも出ている。
「変異性第二次性徴症候群は別名性転換症、何故か思春期の男児/少年のみしか発症が確認されて無い……伝染性は無い事は既に証明されている、しかしその子供の親は空間アブダクションが起きた地方自治体出身である事が多い……」
と、なるとそれなりに絞られてくる。日本では三か程発生した事が確認されている……ただ両親の出身地になると市役所や総務省の戸籍課データベースに侵入するしかなく、一回でもやって人生オワタになる。つまり学生大会の出場辞退や推薦入試資格剥奪やら……発覚して地獄を見た奴は毎年出る。
「……唯の親も確か……まさかな」
漠然としているがあの水着が何かしらの仕掛けがあるのなら……糸口は御堂川 明しかない。



「合宿に出ない!」
陸上部の集まりの為に中学校に来た雄二は唯が合宿をパスする事に驚いた。
「ごめんっ、例の水着で泊まり掛けがあるんだ……」
唯は嘘を付いた……本当はセカンドオピニオンを兼ねて検査入院する事になり、明さんの尽力で三沢財閥の系列病院に行く事になっている。
「そっか……大変なんだな」
「うん、明さんも苦しい立場だしね……雄二も知っていると思うけど」
確かに国際大会にて優勝もしてない彼女の実績を思うとミサワスポーツに就職できたのはやはりあの不祥事による“補償”の一環だろう、これは週刊誌の定番ネタである。
「かなりスジがよィっていうのにねぇ」
傍にいた陸上部のマネージャーである二年生の先輩である二之坂 紫苑は残念そうに言う。因みに彼女も唯と雄二が所属するスイミングクラブに在籍しているので顔見知りである。
「僕は彼女の為に何かをしたいって思うんだ……」
「まっ、ウチは生徒の自主性を尊重し……行き過ぎると介入するってスタンスだからね」
紫苑は苦笑して言う。
「それにしても唯君、用心しておかないとセーラー服着せられるかもよ……文化祭で」
毎年数人可愛い男子生徒に女装させたがる人は出て来るので唯の様な中性的な生徒を見るとついつい言ってしまうのだ。
「(合宿の場所に病院が近いけど出無ければいいかな)」
唯もここの中学の裏掲示板を見ていた。
「そうそう、怪人が出たって知っている?」
紫苑が話題を変える。
「でも直ぐにシャスパルオンスタンダートが倒したって……」
「C4が出たの……エクステンダーポリスも存在を否定した幻の捜査官……にも関わらず目撃例が幾度もある正体不明の正義のヒーローっ!」
紫苑はこの手の話が好きな少女でもある。
kyouske
2015年08月28日(金) 02時02分46秒 公開
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