性別変更 1
・変化

 週末の夕方僕はトルソーに着せられたその水着をじっと見ていた。幼稚園の頃から通っているスイミングクラブは定期的にスポーツ用品店の出張販売がある、中学生になりこれまでのビキニ型やボックス型だと卑猥だと言う自意識過剰なバカ親達の要望により数年前からスパッツ型になっている。
「興味あるんだ、僕」
女性店員さんが苦笑するのも無理はない、一見して少女用のセパレート式スク水に見えるが実は少年用である。確か競泳用水着の中にはウェットスーツの様に全身を覆うタイプもあるのだが水の抵抗を低減する加工やらで“公平性に欠ける”と言う理由で今は国際大会での使用を禁止されている。
「これね、“素肌を見せたくない”とか“寒い”とか要望があって開発したんだけどね……思ったより売れなくってね」
聞けば商品化のきっかけは自分の息子に素肌を曝したくないと言うキチガイ母親が女児用スク水で水泳の授業を受ける事を小学校に要請、当然反対を喰らい諦めたのだ。
「試着してみる?」
「はい」
普段は会議室として使っている部屋に置かれた可搬式試着室に入り少し大きい中学校の制服を脱ぎ下着も脱ぐ。
「分かれているんですね」
「そうね……ボタンで留めるようにしているわよ、少女用の水着もそうなっているタイプもあるわ」
彼女は少しうれしいのかカーテン越しでも分かる程会話が弾む。そう、最近の少女用スクール水着はハイレグよりもスパッツの様になっている。ハイレグなんて都市伝説の域かグラビアアイドルの定番、エロゲやアニメ、ラノベの話らしい。自意識過剰な親が増えたのはネットの発展による画像投稿もある。少女や女性なら話が分かるがそれが少年にも向けられるのはピンとこない。
「うぁ~にあっている~」
女性店員さんはうれしそうになるが気がかりがある。欲しいのだが今持っているお金では全然足りない。
「ねぇ、これ後日支払いでいいから買わない?」
「???」
「実はね、ノルマがあって一着は売らないといけないのよ。名刺渡しておくから店に来たら店員さんに見せて」
僕はキッツ用スマホの番号を表示すると彼女は持っていたスマホにそれを打ち込む。
「私の名は御堂川 明よ」
「岬 唯です」
その時は明さんの正体を知らなかった。



翌週の水曜日、唯は代金を持って駅前にあるスポーツ用品店を訪れた。
「あら、あの時の」
店内で作業していた明は傍に居た同僚にアイコンタクトして唯を奥の事務所に案内した。
「あの……立て替えたって思って、それでレアカードを売って」
「親にばれなかったの?」
「成人した兄が居ます、兄も水泳していたので……」
明は唯から渡された封筒を手に取り確認をする。
「使っているの?」
「明日使ってみます、スイミングクラブの方でも問題は無いって」
「もしかして、上半身裸って恥ずかしいのかな?スイミングスクールに通っている子はそんなに意識しないって言うけど」
「正直に言えば……」
少なくともそんな感情を持つ友達はいない、ただ自分はいつ頃か分からないが上半身を曝す事に違和感を感じていた。
「実はこの商品は今後も継続するかどうかは未定でね、ユーザーの声を重視したいの……私自身も数年前までは競泳の社会人選手だったの……かなりいい所まで行けたんだけどね」
「あの協力出来る事なら……モニターになってもいいですよ」
「よかったぁ。ほら、変に強豪校だともう別のスポンサーが付いていたりしているから」
この世界も少子高齢化で色々と大変らしくこんな水着にも手を出すんだろう。



 中学生と言う事で報酬は金銭面よりも現物支給になると言う事だ。一応兄にも話を通しておく必要もある。母親は父親の赴任先に住んでおり実家と唯の世話に関しては兄に任せているのだ。
「御堂川 明って……あいつかぁ」
自宅にて名刺を見せるなり兄である岬 海(みさき かい)は思い出したように言う。
「知っているの?」
「中学時代から五輪候補生として有名だったんだけどね……まあ大学時代に取り巻く人々の不祥事でヤバくなって、支援していたミサワスポーツが社員として拾ったと聞いてはいたが……引退していたか」
兄も地元じゃ有名な競泳選手だったが大学卒と同時にきっぱりと辞めた。
「それにしてもこんな水着を市販するかぁ……競泳じゃ無理だろう」
「だからスイミングクラブで使う様にする。先生達の了承はとっているから」
「なんてまぁ、受難の時代だな」
「???」
兄の言葉の意味、少女スク水フェチにとっては判別が付きにくいらしい。



 翌日、その水着を着てみると安心感がある……屋内だから分かりずらいが屋外なら濡れた素肌に風が当たると寒く感じる事はあるがこれだと幾分軽減される。
「岬、その水着買ったんだ」
50mプールにてその声に唯は振り向く。
「まあ衝動買い」
中学に進学すると幼稚園や小学校時代からの友人の何人かは勉強との両立は無理と言う事で退会したが秋野 雄二は何と無くだが続ける事が出来た数少ない友人の一人だ。
「これ男性用と知った時にはびっくりしたわ、買うとは思いもしなかった」
「中学校は普通にスパッツ型にするよ」
「あれ動きにくいんだよなぁ、ボックス型がエロ過ぎるって言うならそのババァ、欲求不満なんだよ」
とてもこの前までランドセルを背負っていたとは思えないほど問題がある意見だが彼の不満も御尤もだ。
「でも、高いんだろ……」
「ソーリアスレイトのレアカード売ったよ」
「あ~卒業したって言っていたな」
ソーリアスレイトと言うのはトレーディングカードゲームの一種で唯達が小学校入学時にシリーズスタート、その頃のレアカードは今のレギュレーションではチートカートと呼ばれ公式戦では使用を禁じているがコレクターの間じゃ絶板とあって売値が六桁以上に到達するカードもある。唯は雄二や兄だけには持っている事は教えていた。
「すげぇな……」
「持っている事知れたらトラブルの元だもん」
二人は軽くストレッチをしつつも話していた。
「部活どうする?」
「別に入らなくってもいいだろ……水泳部は無いし」
「進学に不利になるから部活はしておけって……陸上部ならいいかなって」
確かに水泳部がある所は私立か強豪校位しかない、二人が通うのは公立でありプールは基本的には夏のみだ。とは言え二人ともここら辺ではそれなりに記録会では猛者でもあるが名門校に声がかかる事は無かった。
「それにしてもそれ着ると本当に女子に見えるな」
唯は元から中性的な顔立ちであり体のラインもまだまだ子供ぽさを残している。
「アクエリス一本おごりな」
唯の言葉に雄二は頷く、どちらが早いか個人メドレーで勝負する時の合図でもあった。




「ええ、計画は進めてください」
明はノートPCにて画面に映っている男と話している。
『ふむ……彼のデータは既に揃っている、名門校に食い込む訳にもいかんからな』
明は怪しげな笑みを浮かべた。


kyouske
2015年05月18日(月) 01時43分28秒 公開
■この作品の著作権はkyouskeさんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
今のスクール水着を知ってネタにしてみました。

この作品の感想をお寄せください。
これはちょっと続きが気になります。 30 Gyophry ■2015-06-07 15:40 ID :
PASS
ナイスネタ 男子用スク水にしたのも興味をそそりますね 30 ■2015-06-04 20:45 ID :
PASS
合計 60
お名前(必須) E-Mail(任意)
メッセージ
評価(必須)  削除用パス 


<<戻る
感想管理PASSWORD
作品編集PASSWORD 編集 削除